(6)囚われの天莉

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「なぁ、天莉(あまり)。キミは(なん)にも悪いことなんてしていないのに、彼らから馬鹿にされたままで構わないって言うの? 彼らにされたことがショックで打ちのめされたから……。何で自分がこんな目に遭わなきゃいけないの?って思ってるから……。そんなに憔悴(しょうすい)し切っているんじゃないのかね?」 「そ、れは……」 「キミをないがしろにした奴らなんて、俺と一緒になって見返してやればいい。――そのために俺を利用しろ」 「で、でも、高嶺(たかみね)常務っ! ……それでは貴方に何のメリットも……!」 (やはりそうきたか)  余りに予想通りの反応に、(じん)は心の中で密かに笑った。  尽の知る限り、玉木天莉という女性は真面目で誠実。  他人に迷惑をかけることを嫌い、自分を犠牲にすることはあっても、他者をおとしめたり利用するような真似は決してするようなタイプじゃない。  そんな天莉だからこそ、自分が理不尽なことをされて人一倍苦しんでいるとも言えた。  天莉が、尽からの言葉に『自分ばかりが得をする、そんな提案は受け入れられない』と難色を示すのはある意味想定の範囲内だったから。  尽は捕らえたままの天莉の手をギュッと強く握り直した。 「詳しくは話せないが、俺にももちろんメリットはある。でなきゃこんな提案自体するわけがないだろう?」 「でも……」 「天莉、キミは俺を買いかぶり過ぎだ。人の上に立つ人間がそんな甘い考えばかりじゃいられないことくらい、賢いキミなら分かるよね?」  そこまで言っても尚、天莉がそわそわと落ち着かない様子で尽の手から自分の手を取り戻そうとするから。  尽はこれみよがしに吐息を落として、ならば仕方がない、という(てい)で畳み掛けた。 「もし目に見えて俺に得がないように見えるのが不服だと言うのなら……そうだな。俺を利用する見返りとして、結婚したらキミの全てを俺にくれるというのはどうかね?」 「えっ?」 「俺はね、天莉。キミと婚姻契約を結んだ(あかつき)には、よその女に手を出すことは一切しないと心に決めているんだ。例え相手が性を売るのを仕事(なりわい)にしているような女性だとしても、ね?」  散々女遊びをしておいて何だが、身を固めるとなれば話は別。
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