(6)囚われの天莉

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「そういうのは世間一般的に見て、許されることじゃないからね。――この意味が分かるかな?」  そんなことをすれば、家族大好き人間の秘書――直樹が黙っていないだろうし、実際そう言うスキャンダラスなことは(じん)の足をすくいかねないから。  尽は自分の立場をわざわざ悪くするような馬鹿な真似をする気なんてさらさらない。 「要するにね、天莉(あまり)。俺の欲求を満たしてくれるのは必然的にキミしかいないということになる」  ――この話はもう少ししてから話すつもりだったんだが、キミが見返りを気にすると言うから仕方なく話すんだ、とか何とかもっともらしい理由を交えつつ。 「俺は全身全霊を掛けてキミを愛すると誓おう。もちろん天莉を傷つけた二人を見返す手助けだってしてやるさ。――だがな天莉。その代償として、キミは俺に全てを捧げなくちゃいけない」  やむを得ず手の内を明かしたと言う様相で話したが、実際には本題。元よりこれを譲る気なんて微塵もなかった尽だ。 (抱けない女と添い遂げられるほど、俺は聖人君子じゃないんでね) 「なっ……」  いきなりセンシティブな部分に切り込んだからだろう。  天莉がギュッと身体を固くして、ますます尽から遠ざかろうとするから。  尽は握りっぱなしにしていた天莉の手をあえて緩めて逃がしてやると、おもむろにソファから立ち上がった。  そこで、タイミングを見計らったようにインターフォンが鳴る。 「悪い話じゃないはずだよ、天莉。考えてみて? けど、とりあえず今は――」  尽は多くは待たないよ?と含ませてからインターフォンに応じると、固まったままの天莉を残して玄関へ向かう。  十数秒後、ほわほわと湯気のくゆるうどんの器を二つ手にしてリビングへ戻ってきたら、天莉がおびえた顔で尽を見詰めてきた。  まぁそれも、尽にとっては想定の範囲内だった――。
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