(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

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***  食事後、せめて水を飲むのに使ったグラスぐらいは片付けたいと思った天莉(あまり)だったけれど、「倒れられたら敵わないからね」と制されて、代わりにキッチンを抜けた先の出入り口を通って、通路を右手に曲がったところにある一室へ案内された。 「とりあえずここで寝るといい。ゲストルームのひとつだから自由に使ってくれて構わないからね」  食後はてっきり婚姻届があるリビングに連れ戻されて、先程の話の続きを詰められると思っていた天莉は、ちょっぴり拍子抜けして。  なおかつ〝ゲストルーム〟という言葉に一瞬耳を疑ってしまった。 「あ、あの……」  さっきの口振りからすると、婚姻届に無理矢理サインをさせられて……今夜は(じん)との共寝を強要されるとばかり思っていたのに。 「――ん? この部屋じゃ気に入らない? この通り内側からちゃんと鍵も掛けられるし、俺の寝室の隣とは言え、それなりに安心して眠れると思うんだが」  ――もちろん、マスターキーはあるけれど、さすがに緊急時でもない限り天莉の許可なしにそれを使って部屋に押し入ったりはしないよ?と付け加えられて、ククッと笑われてしまった。 「どうしてもイヤなら他にあと三部屋あるし……そのどこかに変更することは可能だが」  そこまで言われてしまっては、自分が意識し過ぎているみたいで逆に恥ずかしいではないか。  天莉はうつむきがちに「ここで大丈夫です」と小声でつぶやいた。  天莉が通されたゲストルームは、ホテルのシングルルームよりちょっぴり広いかな?と言った雰囲気の畳二十五畳(十二坪)ちょっとの部屋で。  壁際にスタンド付きのライティングテーブルと椅子。  その隣にセミダブルの大きなベッド。  ベッドの足元側の壁が作り付けの棚になっていて、天莉の家のテレビよりはるかに大きな七五インチの液晶テレビが置かれていた。  それとは別に天莉のアパートのものと同じくらいの大きさのクローゼットがあって。  ゲストルームと呼ばれているけれど、普通の寝室と大差ない様に思えてしまった。
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