(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

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 その立派さに気圧(けお)されて、天莉(あまり)は逆に色々冷静に考えてしまう。  そもそも泊まる気で来ているわけではないので、天莉の荷物は仕事に持って行っていたA4サイズ相当のトートバッグひとつ切り。  化粧直しのためのミニポーチは入っているけれど、メイクオフのグッズや、スキンケア用品まではさすがに持ち歩いていない。 (お風呂入りたいし、下着だって替えたいな? 服だってこのままじゃ着替えられないよね? 明日同じ服で出社するのは絶対イヤだ。フラれ女な上にそんなことしたら、ますます惨めになっちゃいそうだもん。身体も大分回復したし、家に帰らせて下さいってお願いするの、ありかな?)  久々にちゃんと食事を摂ったからだろうか。  さっきまでのような極端なふらつきはない。  これなら家に帰らせてもらっても、ひとりで問題なく過ごせそうな気がする。 *** 「天莉(あまり)」  立派な部屋を(あて)がわれたものの、アレコレ思いを馳せていた結果、ぼんやり立ち尽くしたままでいたらすぐ背後の扉がノックされた。  (じん)からは施錠できると聞かされていたけれど、当然まだ鍵なんて掛けていなかった天莉だ。  突然のノック音にビクッと肩を跳ねさせて。  でも服を脱いだり、だらしない格好をしているわけではなかったから。  すぐにドアを開けてくれて構わないと言う意志を込めて「はいっ、どうぞ」と返したのだけれど。  しばらく待ってみても何の動きもない。 (――あれ?)  不審に思って天莉から恐る恐るドアを開けてみると、どうやら尽は尽で、中から天莉が扉を開けてくれるのを待ってくれていたらしい。  自分の家とは言え、人に貸した部屋を勝手に開けるのはマナー違反だと心得ているらしい紳士的な尽の様子に、天莉は高嶺(たかみね)尽という男の育ちの良さを改めて再認識させられて。  それと同時。  ほぼ無意識に、(博視(ひろし)だったらきっと、ノックもなしに開けちゃってただろうな)と、またしても元カレとの差を考えている自分に気が付いた。
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