(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

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博視(ひろし)のことはいい加減忘れなきゃ)  (じん)と比べると『どうなの?』と言うところばかりが目に付くようで、天莉(あまり)は今更ながらあんな人とよく五年も一緒にいられたなとか思ってしまった。  そんな相手にあんなフラれ方をしたんだと思ったら、何だか無性にモヤモヤしてしまう。 「風呂の湯張りをしている間、近所のコンビニへキミの泊まりに必要なものをそろえに行こうと思うんだが、体調はどうかね? もし、まだしんどいようなら俺が勝手に選んで来るが……。下着も必要だろうし、自分で選んだ方がキミも心地良いんじゃないかと思ってね」  言われて、これはチャンスかも知れないと思ってしまった天莉だ。 「あ、あの……そのことなんですが……お陰様で随分調子も良くなりましたし……このまま私、家に帰ろうかと(おも)……」 「それは却下だよ、天莉」  だけど、言葉半ばですぐさま拒否されてしまった。 「食事、さっきは俺と一緒にだったから食えたようだが、一人にしたらまた食わなくなるだろう? 悪いが、は俺の監視下に置かせてもらうつもりだ」  言われて、しばらくの間っていつまで?と思ってしまった天莉だ。 「あ、あのっ、しばらくって……」 「もちろん俺が大丈夫だと思うまで、だが? 何か問題でも?」  つまりは先が見えない上に、尽のさじ加減ひとつでずっと帰らせてもらえないかも知れないということではないか。  天莉が『問題しかありませんよ⁉︎』と思ったのも致し方あるまい。  基本目上の言うことには従順な天莉も、さすがにこれには承服できないと思って。 「そんな長居してしまったら着替えとか困ります。それに――」  一晩ならともかく、いつまでとも分からない期間家に帰らせてもらえなかったら、ベランダでプランター栽培をしているミニ菜園とか、部屋に置いてある観葉植物が枯れてしまう。  それを話して眉間にしわを寄せた天莉に、尽は「だったら――」と、とんでもないことを言い出した。
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