(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

6/14
前へ
/484ページ
次へ
*** 「失礼するよ」 「えっ、あ、はいっ。……どうぞっ」  背後から掛けられた言葉に思わずそう返してはみたものの。 (何でこんなことになってるのっ)  天莉(あまり)の頭の中はそんな疑問で一杯だったりする。 (私のバカっ)  自分のすぐそばに立つ、長身の(じん)をチラチラと見遣りながら、天莉は数分前の自分を(ののし)らずにはいられない。 ***  実は先ほど尽のマンションで、自宅に残している植物たちの心配をした天莉に、尽がこともなげに言ったのだ。 『だったら、それを取りに行くついで、当面の生活必需品も一緒に持ち帰ってくればいいんじゃないか? そうすればもしなくて済むし、キミも使い慣れたものを使える。――一石何鳥(いっせきなんちょう)にもなるとは思わんかね?』  と――。  それは必然的に〝俺のマンションに長期滞在しろ〟と示唆(しさ)されているのと変わらなかったのだけれど、余りにさらりと告げられたので、そこまで思い至るゆとりがなかった天莉だ。  加えて、無駄が省けると言う文言に過剰反応した天莉は、半ば無意識に「はい」と答えてしまっていた。  だって――。  たかだか一泊のために『これ欲しい!』と(こいねが)ったわけでもない下着を買うのに、抵抗があったから。  ――外食はもったいないしさぁー。俺ん()で天莉が作った(めし)食おうぜ? お前、結構料理うまいじゃん? な?  ――外に出掛けたら疲れるしさ。そもそも無駄に金使っちまうだろ? そういうのって勿体ねぇと思わねぇ? 俺、仕事で外ばっか出てるしさぁ、休みの日ぐらい家でのんびり過ごしてぇんだわ。天莉なら分かってくれるだろ?  お互いフルタイムで働いていたし、決してお金がなかったわけじゃない。  だけど。  付き合い始めて三年が過ぎたころから、ことある毎に『もったいない』を免罪符のように使っては、天莉との外出を避けるようになっていた博視(ひろし)との日々が、天莉にもったいない精神を植え付けるようになっていた。
/484ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6611人が本棚に入れています
本棚に追加