(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

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 無駄使いはしたくないと言う観点からだろうか。  料理の材料費などはいつも天莉(あまり)持ちにさせて、知らん顔をしていた博視(ひろし)だ。  一度だけ、食材費折半の話を持ち掛けたら「細かい女だな」と溜め息をつかれて。以来、何となく言えない空気にされてしまった。  結局自分も食べるんだし、と言い聞かせて自腹で手料理を振る舞い続けていた天莉だ。  家庭菜園を始めたのも、かさばる食費を少しでも浮かせたくて、長ネギの根っこを水につけて育てたことに端を発していたりする。  ここ一年ぐらいはデート回数自体極端に減っていた博視と天莉だ。  博視は相も変わらず忙しさを理由に、たまに会えても疲れてるから、とそんなデートプランばかりを提案してきていた。  今思えば、博視は浮かせた時間とお金を、江根見(えねみ)紗英(さえ)につぎ込んでいたのかも知れない。  何にせよ、そんな感じで数年間かけて博視に植え付けられた〝無駄遣いは悪〟という価値観が、(じん)が何気なく告げた〝無駄な買い物〟という言葉に過剰反応して。  結果、思わず「はい」と尽の言葉を肯定してしまっていたのだけれど。 「――ではすぐにでも行こうか」  そんな天莉の内情を知ってか知らずか、善は急げとばかりに尽から急かされ車に乗せられた天莉は、気が付けばのにアパート前まで辿り着いていた。  『どうして我が家を知っておられるのですか?』なんて愚問は口にするだけ無駄。  恐らく、〝たまたま別件絡みで調査していた〟のなかにその情報も含まれていたんだよね?と、半ば諦めモードで自分に言い聞かせた天莉だ。  天莉自身は気付いていないのだが、こういうすぐにアレコレ諦めてしまうのも、博視との数年間で天莉が身に着けてしまった負の遺産だったりする。
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