(7)俺は根菜の味噌汁が好きなんだ

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「俺はキミに迷惑を掛けられたなんて微塵(みじん)も思っていない。だから迷惑の詫びと言うなら、そんな手料理、全然嬉しくないんだよ」  続けられた言葉に、思わず瞳を見開いた天莉(あまり)だ。 「わ、私……」 「どうせ作ってくれるなら、心の底から俺に食わせたいと思ってくれてからにしてくれないか? その方が俺も嬉しい。何せ人から料理を作ってもらうこと自体久々だからね。――天莉には申し訳ないが、俺は結構なんてシチュエーションを期待してるんだ」  そう言われた途端、(じん)を見上げたままの天莉の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちて。  天莉はそのことに自分自身驚いてしまう。 「そんな重いものを込めても……いいんですか? 仮初(かりそめ)の関係なのに……迷惑じゃないですか?」 「バカだな、そんなのいいに決まってるじゃないか。キミは俺のプロポーズを一体何だと思ってるの? 例え仮初だとしても、俺はキミだけのものになると約束したよね? それは逆も(しか)りなんだけど。まさかとは思うが天莉……。キミは一生俺を愛してくれないつもりかい?」  尽は天莉の頬を伝う涙をそっと親指の腹で拭うと、 「なぁ、天莉。ゆっくりで構わないから。前の男なんかと比べたりせず俺自身を見て評価して? そうしてゆくゆくは……俺をそいつ以上に好きになれよ」  大切な宝物を慈しむみたいに天莉の名を優しく呼んで、天莉の額に触れるだけの柔らかなキスを落とした。  天莉は尽の温もりを感じながら、 『もしもそうなったら……貴方は私を愛してくれるんですか?』  そんな不毛な言葉を必死に呑み込んだ。
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