(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

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 キュウリ、ナス、ミニトマト、じゃがいも、ラディッシュ、小ネギ。  ベランダにあったプランターを無頓着に愛車――黒のランドクルーザー――へ載せようとする(じん)を見て、手にウサギみたいな見た目の多肉植物〝モニラリア〟の鉢植えを持ったまま、天莉(あまり)は慌てふためいた。  だって、プランターなのだ。  裏側には土だってたくさん付いている。 「あ、あのっ。新聞紙とか持って来るのでちょっと待ってくださいっ」  尽の愛車は五人乗り仕様。三列目シートがないタイプなので、後部の荷室が広かった。  でも、だからと言って汚してもいい理由にはならないわけで。  天莉が鉢植えを手にしたままソワソワするのを見て、尽がクスクス笑った。 「俺の車が汚れるのがそんなに心配?」  問われて、コクコクとうなずいたら、 「そうか。俺は別に気にしないんだけど、このまま載せたらキミが倒れてしまいそうだし。お願いしようかな」  ふわりと極上の笑み向けられて、天莉は落ち着かない気持ちになって。  ブワッと耳が熱くなったのを感じた天莉は「あ、あのっ。じゃあ取ってきますねっ」と慌てて答えたのだけれど、動揺の余り声が上ずって余計に恥ずかしくなってしまう。 「行くならそれ、置いた方が良くないかね?」  手にしたままのモニラリアの鉢植えを指さされて、天莉は慌てて肩を跳ねさせた。  さっき部屋で、尽から博視(ひろし)以上に俺のことを好きになれと言われてから、どうも目の前の彼のことを意識してしまっていけない。
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