(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

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 元々高嶺(たかみね)(じん)という男は極上のハイスペック男性なのだ。  地位的なものはもちろん、見た目もかなり最上級の部類に入るのだから、きっと天莉(あまり)じゃなくても意識したと思う。  ましてや天莉は今、体調不良の際たまたま居合わせたに過ぎなかったはずの尽から、何故か強引すぎて怖いくらい熱烈に迫られまくっている。  利害の一致がその理由だと尽は言うけれど、それだけで偶然ほんの少し(そで)が触れ合ったに過ぎない通りすがりの平凡なフラれ女に、あそこまで強引になれるだろうか? (私なら好きでもない人にキスとか無理……)  言わせたくないことがあって口を塞ぐにしたって、いきなり唇で塞ぐなんてあり得ない暴挙だ。 (キスっ)  思い出しただけでぶわりと頬に(しゅ)が昇りそうになって、天莉は小さくフルフルと(かぶり)を振って邪念を追い払った。  そうしながら、気持ちを切り替えてモニラリアの鉢植えを野菜たちのプランター横に置こうと(かが)んのだけれど。  ソワソワしながらしゃがみ込んだ天莉のすぐそばを、突如ニャーンという声とともに一匹の三毛猫が走り抜けたからたまらない。 「ひゃっ」  どこからともなく現れた猫にびっくりして声を上げた天莉を無視して、その子は尽の足元へ一直線に駆け寄ると、愛し気に尽の足にスリスリィ~っと擦りついた。 (あ、あの子……)  赤い首輪を付けたその三毛猫は、時折この辺りで見かけるどこかの飼い猫だった。  天莉がいつも遠巻きに「可愛いな」と見ていた、いわゆる顔見知り?の子で。  事故に遭ったりしたら怖いし、自分なら外には出さないのにな、と見かける度に心配もしていた猫だった。  今まで天莉がどんなにその子のことを想って熱視線を送っても、こんな風に近付いてきてくれたことなんて一度もなかったのに。 (……何で?) --------------------- 【おまけ的雑談】 前のページで天莉(あまり)が手にしていたウサギみたいな植物、モニラリアについてエッセイに書きましたので、気になった方、もしよろしければ。 https://estar.jp/novels/26049096/viewer?page=288 ---------------------
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