(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

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 まるで(じん)が飼い主だとでも言わんばかりに懐くその姿に、正直驚いてしまった天莉(あまり)だ。 「高嶺(たかみね)常務、まさか今、猫缶とか持ってたり……」 「するわけないよね」  クスクス笑いながら言って猫の傍にしゃがみ込んだ尽が、彼女の喉元を愛し気に撫でるのを見て、天莉は胸の奥がキュンと(うず)くのを感じてしまった。  尽はいい香りもするし、きっとこの子が帰宅したとき、飼い主は「おや?」と思うに違いない。  そこまで考えてもしかして、と思う。 「あのっ。まさかその子の飼い主って高嶺常務だったりします?」  天莉は今まで、この子が誰かにこんな無防備な姿を見せているところを見たことがない。  尽の家からは大分離れているし、そんなことはないと分かっていても、つい聞いてしまいたくなった。 「まさか。俺は飼い猫を外に出す趣味はないよ? 飼うなら絶対家からは出さないようにするだろうね。外に出せばどんな危険があるか分からないし」  そこで意味深長にちらりと天莉の方を見遣ると、「何より、俺は大事なモノは閉じ込めておきたい性分(しょうぶん)なんだ」と続けながら「ほら、お前もこんな人懐っこかったら危ないだろ」と猫に向かって話しかける。  元々猫が好きだから、猫に懐かれる人と言うのに強い憧れがあったりする天莉だ。 (やめて下さい、常務。その姿は反則です!)  博視(ひろし)は猫はおろか、動物全般が余り好きではなかったので、天莉は時折一人で猫カフェに行って猫不足を補給したりしていた。  元々尽の容姿や立ち居振る舞いなどが嫌いではない天莉だ。  何とか理性で落ちてはいけないと踏み留まっていたというのに。  猫を(いつく)しむ尽の姿に、不覚にもときめいてしまった。  これは非常によろしくない、と天莉の心の中で警鐘が鳴り響いたのは致し方のないことだろう。 --------------------- スタ特に『ヒミツの缶詰』https://estar.jp/extra_novels/26099265を追加しています。 fdd051a1-d9fe-477d-9d44-12a5a23f5cb2 もしよろしければ。
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