(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

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 天莉(あまり)のマンション外に設置された外灯と、近くの電柱に取り付けられた街路灯の明かりの下で繰り広げられるイケメンとモフモフのラブシーン。  そこに自分が混ざれないことにギュッと胸が苦しくなって、天莉は一歩ふたりに近付いた。  だが口惜しいことに天莉の気配を感じるなり猫がパッと走って逃げてしまう。 「あ……っ」  少しぐらい撫でさせてくれても……なんて気持ちが、所在なく伸ばしたままの指先からダダ漏れてしまった。 「天莉。もしもキミが望むなら……」  立ち上がってスーツのしわを軽く伸ばしながら。  天莉の方へ向き直った(じん)が、下ろせないままの天莉の手にちらりと視線を投げかけて不敵に微笑んだ。 「一緒に暮らすに当たって、猫を家族に迎え入れるのも悪くないな……なんて思うんだが、どうだろう?」  忙しくて飼えなかっただけで、元々俺は動物が嫌いじゃないしね、とこちらを見詰めてくる尽に、天莉は思わず前のめりになって問いかけていた。 「たっ、高嶺(たかみね)常務のマンションは猫ちゃんOKなんですか?」  と――。  実は天莉の住んでいるここはペット不可。  いつか猫と暮らすことを夢見ている天莉は、憧れとともにちょくちょくネットで不動産情報を眺めているから知っている。  ペット可とうたわれた物件でも、爪とぎなどで家屋に傷をつける危険性のある猫は駄目だと(ただ)し書きのある場合があることを。  就職してすぐの頃は家賃との折り合いがつかずにペット可物件を見送った天莉だったけれど、二年後――つまり先ごろ――の契約更新の際には大分生活にゆとりも出来ていた。  本来ならペット可物件に住み替えて憧れのモフモフライフに一歩前進しても良かったのだが、生き物が苦手な博視(こいびと)のことを考慮して、そのままここに住み続けることを決めたのだ。  だけど――。
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