(8)まさか今、猫缶とか持ってたり?

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 自分との交際や結婚を不安がる天莉(あまり)に、いつもの(じん)ならば自信満々。天莉の不安を押し込める形で『俺を信じろ』と言い切っていたはずなのだ。  だが、それが出来なかったのはきっと、天莉に告げた言葉そのままなわけで――。 (直樹(なお)じゃあるまいに……どうかしてるだろ、俺)  ふと幼少の頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染みの顔が浮かんで、ほとんど無意識。  自嘲気味にふっと吐息が漏れて、すぐそばの天莉に、「高嶺(たかみね)常務?」と不安そうに呼び掛けられてしまう。  その瞬間、うだうだ考えていたことが全て吹っ飛んで、ただ一点。  天莉の表情を曇らせた自分に焦った(じん)だ。 「……きっかけと呼べるほど明確なものになるかは分からんが――。そうだな。キミのことを調の一人としてずっと見ていたら、天莉自身の人間性に惹かれるようになっていた、という感じだろうか」  きっかけなんてこの際どうだっていい。  天莉のことを色々知った今となっては、それより大事にしなければいけない気持ちがあるように思えて。 「もちろん、キミの見た目が好みだったと言うのは大きいと思うがね、今は玉木天莉と言う人間そのものに強く惹かれているんだよ、俺は」  柔らかく微笑んで、尽の言葉に戸惑う天莉の頬にそっと触れてみた。 「……あ、あのっ、私……」  途端真っ赤になってオロオロと瞳を揺らせる様が本当に愛らしいと思ってしまった尽だ。  今まで尽が付き合ってきた女性たちは皆、尽が触れるまでもなく自ら身体をすり寄せてくるような相手ばかりで。  ただ頬へそっと触れただけで、こんなに照れたりなんかしなかった。  だからだろうか。  尽には、天莉の初々しい反応の全てが新鮮で……たまらなく愛しく思えて。 「天莉。キミは本当に可愛いね」  心の底からそう思ったら、自然と相手を褒める言葉が出てくるのだと、尽は生まれて初めて知った。
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