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「それでね、玉木くん。机の上を見てもらったら分かると思うんだがキミが休んだせいで結構仕事が溜まっていてね――。……って聞いてる?」
寝込んでいた間のことに思いを馳せていた天莉は、訝るような課長の声でハッと我に返った。
「あ、すみません。聞いてます」
まだしっかり見たわけではないけれど、机にたんまり山盛りになっていた仕事の内、純粋に何割ぐらいが本当に天莉自身がしなくてはならない仕事なんだろう?
ふとそんなことを思って、我知らず吐息がこぼれそうになって。
それを懸命にこらえて課長をじっと見詰めたら、少し決まりが悪そうに視線を逸らされた。
「あの……私がお休みを頂いていた間、江根見さんは……」
その表情を見て思わず後輩の名を出した天莉に、課長の眉尻がピクリと跳ね上がって。
「かっ、彼女はっ。分かってると思うけど今、体調が余り良くないからね。キミが思うほど仕事はデキてないかも知れないが……そ、そこも含めて彼女を担当していた玉木くんがしっかりサポートをしてくれないといけないんじゃないか?」
体調がかんばしくないのは病み上がりの自分もなんだけどな?と思った天莉だったけれど、そんなことを伝えたところできっと意味はない。
今まで散々課長から、こんな風にまるで全て天莉の責任だと言わんばかりの口調で押さえ込まれては紗英の尻ぬぐいをさせられてきたのだ。
天莉はこの件に関して課長に抗議する気力を、長い月日をかけてすっかり削ぎ落されてしまっていた。
グッとこぶしを握り締めて不満を抑え込む天莉の背後、にわかにフロアの中が騒がしくなって――。
「――?」
何だろう?と思いはしたものの、課長と話している最中だ。ここで課長に背中を向けて背後を確認するのは良くないかな?とも思ってしまって、天莉はひとり振り返れない。
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