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「璃杜は快くOKしてくれました。……玉木さん、お聞きのように僕は高嶺尽とは違って身持ちの堅い妻帯者です。家には愛する妻だけではなく可愛い娘も待っています。泊まりに来るなら断然我が家の方が安全だと思いませんか?」
電話を切るなり、今までは天莉を放置して自分を説得対象にしていたはずの直樹が、先程までの甘々な雰囲気とは一変。
きりりとしたいつも通りの声音で天莉にそう声を掛けるから。
尽は正直焦らずにはいられなかった。
だって――。
あろうことか、尽が何度誘っても頑なに泊まりを拒否していた天莉が。
まるで直樹の声のギャップと、家族持ち安全牌マジックに罹ったみたいに「はい」と答えてしまっていたからだ。
「――待ちなさい、玉木さん。別に直樹を悪く言うつもりはないが、よく知りもしない男の言葉をそんな簡単に信じて……そう易々と宿泊をOKするのはどうかと思うぞ? 上司として老婆心ながら言わせてもらおう。ひょっとしてキミは今、体調不良で危機管理能力が鈍っているんじゃないかね?」
「えっ……?」
キョトンとした顔で自分を見上げてきた天莉から、『お言葉ですが高嶺常務。……それ、思い切りブーメランだと思うんですが』と言われかねないセリフを吐いて。
自分でもそんなこと百も承知だった尽は、天莉がそう反論してくる隙を与えないよう、すぐさま彼女に伊藤家への宿泊を考え直すよう畳み掛けるべく、物理的にも詰め寄ろうとしたのだけれど。
「尽。それ、お前にだけは言われたくないんだけど?」
忌々しいことに、直樹の方からもっともな反論をされて。
そればかりかさり気なく天莉との間に割って入られてしまった。
そうしてそのついで。
スッと耳元に唇を寄せられて、
「尽。これ以上不用意に彼女へ触れてみろ。僕だってお前を守り切ってやれる自信はないからな? 今そんな馬鹿な真似をして彼らにつけ入るに隙を与えてやるだなんて、お前はどれだけお人好しなの?」
そう囁かれてしまっては、引き下がらざるを得ないではないか。
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