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3
ガリレオはサグレドの胸を掴み、激しく全身を揺さぶる。
真相を語るまで、したり顔のソバカス野郎を離さないつもりだったが、思惑通り事は運ばない。
グッと呻き、サグレドが白目を剥いた。急に体を揺らした勢いで、リンゴが喉へ詰まったらしい。
「あ、オイ……君、大丈夫?」
サグレドに答える余裕は無い。
背筋をピ~ンと伸ばした直後、真後ろへ倒れて行く。
ガシャン!
童顔をした青年が広場の石畳の上に倒れると、金属的な音が響いた。間もなく両耳から白煙が漏れ、薄く開いた目の奥で稲妻に似た雷光が瞬く。
「……こいつ、人間じゃないのか!?」
抱き起そうとし、ガリレオは束ねた赤毛の合間に、小さなスイッチが隠されている事を知った。
「何だ、こりゃ? まるで機械仕掛けのカラクリ人形……カーニバルの見世物じゃあるまいし……」
愕然とする内、サグレドの異常に周囲も気づいた。こちらを指し、人殺し、と叫ぶ奴までいる。
「違う、勘違いするな。僕は何も手荒な真似をしていない!」
抗議も空しく、先程、聖堂で浴びた以上に冷たい視線が降り注ぐ。
ガリレオは慌ててドゥオモ広場から逃げ出そうと試みるものの、時、既に遅し。
裾の長い漆黒の衣を身にまとう男が、重武装の衛兵を引き連れ、素早くガリレオの前へ立ち塞がる。
「動くな、狼藉者!」
「……僕、ピサ大学の学生です。話を聞いてください。そこに倒れている男とは、先程、知りあったばかりで」
鋭い槍の穂先が胸元へ突きつけられ、ガリレオは途中から何も言えなくなった。
「我が名はシンプリチオ。恐れ多くも、ローマ・カトリック教皇より直々に使命を賜る異端審問官だ」
黒衣の男が教皇直属と聞いた途端、広場は一気に静まり返る。この時代の宗教的権威が携える威光は、まさに圧倒的と言えよう。
強張った顔で直立不動のガリレオを冷笑し、シンプリチオは、ピクリとも動かないサグレドの身体を爪先で小突いた。
「我々は、この男をずっと探しておった」
「えっ?」
「目くらましを用い、戯言で人心を謀る危険な詐欺師である。如何なる幻を見せられても決して信じてはならぬ」
「つまり、お尋ね者なんですか?」
「いかにも」
「……彼、確かに奇妙な事を口走りましたが、僕には只の詐欺師と思えません」
「ほう、学生の分際で、私へ進言するに足る根拠があるか?」
「サグレドは深遠な知識の持ち主である上、体も、その……人間離れしていて」
説明に困ったガリレオは倒れている男へ手を伸ばし、赤毛の合間に覗くスイッチを押した。
サグレドの全身が震え出す。
そして、その頭がいきなり二つに割れ、金属と思しき接合面から半透明なカプセルが覗いた時、広場全体を包む巨大な放電現象が発生した。
ガリレオに避ける暇など無い。
閃くアーク放電の電弧へ触れた途端、あっという間に失神してしまったのである。
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