The face

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The face

 1999年とか近いので言えば2012年かなあと、考えていた。  世界が滅亡すると言って本気で信じる人なんてきっともういない。俺だってノストラダムスはただのペテン師だったとよく知らない癖に思ってるし、マヤ文明の暦が途絶えてたのだってカレンダー書くのに飽きただけだろと思う。  でも明日滅亡するんだよなあ。どう言ったら信じてもらえるものなのか。  二時間目が終わった休み時間に、手頃なクラスメイトを捕まえて試してみようと思い立ってたまたま通りかかった清楚系活発女子(ん、矛盾してるかなこれ)に「明日滅亡するって言ったら信じる?」と聞いてみた。「世界が滅亡するって言ったら」 「世界ねー。世界って言ってもいろんな世界があるしねぇ」  普段話さない女子だったから怪訝な顔をされるだけだろうと思っていたのだが、以外にも面白めな回答が返ってきた。  じゃあ地球、と補足を入れると、原因は?と問うて来る。笑って一蹴しない辺りがなんというか危なっかしい。マルチ商法とかに気付かないうちに引っかかってそう、マルチ商法ってどんなか実はよくわかってないけど。  なんか痛々しい話してるかもなあと考えて、気にしないなら意外とこの子はアニメオタクなのかと思考をめぐらす。 「顔だよ」 「顔?」 「地球の顔。目覚めんの」 「……、…」ここで彼女は破顔した。さすがにこれは笑うかあ、と思っていたら、「なにそれ面白い。ていうかファンタジー」 「……そうかね」  あの顔を思い出しながら、結構気持ち悪かったんだけど、と呟くと「見たの?」とまたくすくす笑っている。信じ切っている様子は全然ないが、だからといって完全に嘘だと思っているふうでもない。つかめないなこの子。 「見たよ。夢的なよくわかんないので」 「はぁー、すごいね。明日だっけ? 見れるかな」 「わりとどこでも。虹みたいな感じで、世界各国どこでも見れるよ。気持ち悪いけど」 「アハハ、うん、それはよかった。顔が出てからどれくらいで滅亡するの?」 「確実なことは言えないけど目、開くまでかな」 「それって何時間くらい?」 「わりと長い。授業四時間はできそう」 「じゃ、明日も会えるんだね。教室で皆で見れるわけだ」  もしかしてこれは馬鹿にされているのかと少し思った。この後この子が俺の話をふれまわって、結果顔云々がすべて俺の妄想だった場合に明日公開処刑みたいな。それは怖い。  容易に想像できるし想像すると自信がなくなってくるけれども、嘘は言ってないのでこの微妙な羞恥は行き場がない。いくら明日非現実的な終焉を迎えようとその時までは現実は滞りなく進んでいくし行われていくわけで、意味深なこと言う奴は構ってほしいだけだと捉えられるし世界の終わりとか言い出す奴はイタいと評価される。残念ながら、明日の朝までは俺はそういう目で見られることになる。  実際今近くの椅子で必死に笑いこらえながら聞いてる人たちが居てだな。  余計なこというんじゃなかったなと思って初めて、どうやら俺は焦っていたらしいことに気付いた。 「勿体ないな」と相手が呟くのが聞こえた。促しもしなかったけど、勝手に続きを話してくれる。 「明後日、金曜日ね。学校終わったらライブだったの」 「ああ……、どんまい」 「我慢して貯金したのになあ。やりたいこと遣り終えてないよー」 「たとえば?」 「んー、そうだね、告白とか?」 「明日でいいじゃんそれは」 「今でもいいよ。付き合って下さい」 「は?」  一緒に周囲のやつらも「は?」ってなった。念を押すように相手がもう一度「付き合って下さい」と言う。 「……世界の終局と恋愛って」 「アハハ、映画みたいだよねぇ。洋画っぽいかな」 「えーと。えーと、なんだろ。あー。あの、」 「顔赤いよ」 「うるさいな、ちょっと」  正直今まで全然意識したことなかったんだけれども。というか、明日滅亡なのに今日彼女できてもさ。  別に人生で初めて告白されたわけじゃないが、妙に混乱したし恥ずかしかったしなぜか息苦しかった。明日世界が終わると気付いたときよりもよっぽど動揺した。ドッキリだったりして。全部ひっくるめてドッキリだったら立ち直れそうにない。  告白されたからと言って二つ返事でオーケー出すほど軽くないと自分を信じているので、これまでろくな接点がなかったこの女子に「お願いします」というつもりはあまりなかった。もちろん勿体ないなとは思っている。惜しいけど信念を曲げるわけにはいかない。今現実にログインしてるし、俺も、この子も、他の人も。  よし気持ちは決まった断るぞと思った時に鐘が鳴った。ここまでチャイムが空気読めないと思ったのは初めてだった。「返事は明日ね」と彼女はにっこり笑って自分の席に行ってしまう。だから明日世界終わっちゃうんだって。二十四時間も彼氏彼女の関係でいられないならあまり意味がないような気がするし、これはもう公開処刑の方向なのかと考えざるを得ない。でも嘘は言ってないので彼女を含めクラスメイト全員が登校開始と同時に舌を巻くことになるな。  そう考えて眠った次の日の朝、窓の外からはやっぱり顔が見えた。かなり大きく、山と同じくらいだった。天を向いていて、若干透けてて白くて、実はあれ日が陰ると黒になるんだけど、目は閉じていて髪はない。まつ毛が長い。そしてなんとなく気持ち悪い。  居間へ行くと家族がぎこちなく俺に朝の挨拶をした。ついで、「外見た?」と聞いてくる。聞いたのは妹だった。 「ああ、顔な」 「あ、やっぱ見えるんだ。ふーん……」  ふーん、と言いつつかなり動揺しているのは目に見えてわかった。全員そんな感じだった。朝のニュースでは何も言っていないが、生放送の枠では町の景色に必ず顔が映ってた。リポーターもカメラも多分気付いてるしちらちらそちらを窺うんだけど、見て見ぬふりをしている。幻覚だと思いたいのだろうし、もし口にして周囲に頭がおかしいと判断されたらと思うとへたに言えないのだろうと思う。  母に出されたコーヒーを啜ると塩の味がした。混乱がうかがえる。仕方がないと思ったが、顔のことばかり考えさせるのも酷なのであえて指摘した。母は、やだこの年になってこんな間違いはずかしい、と散々騒いで淹れ直してくれた。  やがてニュースのスタジオが多数の問い合わせを受けて顔について話し始めた。まずニュース番組に問い合わせればわかると思う人がいること自体おかしかったが、俺も事前に知らなければそういうとんちんかんなことをしたかもしれない。アナウンサー達が非常に不自然な表情で、えーとやら沈黙やらを大量に挟んで顔について談義する。  こんな風に裸の王様みたいな状態になっているのは日本だけだ。アメリカなんかはその童話の子供が指摘したみたいに素直に顔について考え始めている。と、知っているのも事前情報。つらいのが、顔は常に西側に見えるものだからこれからアメリカが「巨大なモンスターを討伐する」という理由で核を日本の方へ向けてくることだ。そのうちの一人はこう言う。「Wait, Japan! We'll help you now!(待ってろ日本、俺達が今助けてやるからな!)」誰だか知らないが俺はこれを見た時すごく感動した。感動したけど意味がないのが泣ける。ちなみに、顔が目覚めるまでに用意が整わないのでアメリカを含めたすべての核保持国が核兵器未使用のまま終焉を迎えることになっている。 (なんでこんなこと知ってんのかね、俺…)  多分他にも予知夢(正確には夢じゃなかったんだけど)を見た人がいると思ってたけど、テレビ見てても名乗り出る人がいないし、そういえば事前に見た今日の中で「世界の終わりだ」と騒いでいることはなかったような。まさか俺一人とか言わないだろうな。  じゃあ学校行ってきます、と制服姿で鞄担いだら、母親に「ずいぶんおちついてるのね」と言われた。「お父さんなんかずっと新聞読んでるのに」あのテレビ欄しか見なかった親父が読んでるならそれは確かに混乱しているように思う。新聞を端から端まで読んでも何も載ってないんだけど。  妹が母の後ろから出てきて、寝ぐせがついたままの髪をひっぱりながら俺のことを呼んだ。 「兄貴、ほんとにガッコー行くの?」 「行く」 「え、だってあれ、怖くない? 家にいた方がよくない?」 「家にいても無駄だよ」うわ今のセリフすごいイタかったかも。「えーと、学校で待ってる人がいるので」こっちもこっちだ。  妹はこれまで見せたこともない心から心配そうな表情をして、そのくせ「兄貴、彼女もいないくせに?」と大変失礼なことを言ってきた。  それでもまあ俺が今から学校へ行くということはつまりこの家族と会うのも最後だということなので、喧嘩もよしておく。  後悔しないように今日を過ごすといいって、親父にも言っといて。これを別れの言葉にしようと思った。後悔もなにもないかもしれないんだけどさ、滅亡だし。  伝えて、呆然とする二人にちょっと笑いかけて見せて、玄関を 「あ、兄貴窓開いてる社会の」 「くそ、カッコよく決めさせろよ」  ここぞというときにどうでもいいことに気付く妹。でも助かったよありがとう。  こういうとき自転車登校でよかったなあと思う。バスとか運行ストップしてるらしい、予告もなしに。  学校に着くと校門の前で国語のあんまり若くない女の先生がしゃがんで泣いていた。パニックのしかたも人それぞれだなあと思いつつ声をかけてみると、彼女は泣きながら「おはようございます」と言った。それが、無理やり現実を取り戻そうとしている姿なのか、それともどんな異常状態が起こっても学校に来る生徒に胸を痛めているのかよくわからなかったし、挨拶を返す以外どうしようもなかったので大人しく教室に向かうことにした。  学校にはそれなりに人が来ていた。皆それぞれぎこちない。面白い。面白がってる場合じゃないけども。  規律にうるさいオジサン教師なんかはずっと西に面する窓の外を眺めていた。理科教師だったか、だから観察しているのか、と思うと今まで煩わしい気がしてたその人になんとなく愛着を覚えた。  教室に入ると当然のように質問攻めにされた。 「あー! 来た!」 「お前昨日あの顔のこと話してたじゃん! あれ何? なんでお前知ってたの? つか、えっと、あれ何?」 「あれ滅亡? 滅亡すんの? なんでなの?」  なんかおかしくて笑ってしまう。すると結構鬼気迫った様子で罵声を浴びせられた。別に馬鹿にしてるつもりも見下してるつもりも、ないんだけど。 「ごめん、でも、俺もよく知らん」 「何で知ってんだよ! ホントに滅亡すんのか!?」 「あー、多分。あれが起きたら」 「なんで対策練っとかなかったんだよ!」 「いや、どうしようもないし」  俺ヒーローじゃないし。  向こうの方でがたんと席を立つ音が聞こえた。見てみると、クラスでも一番陰気だと名高かった小柄な男子が近づいてきて、眼鏡をはずしてこう言った。 「きみなら対話ができるんじゃないの」  対話て。「できないから。」まだ寝てるし。 「きみはきっと選ばれたんだ、だってきみだけが知っていたんだろう、何か方法があるんじゃないのか、それとも、きみだけがノアか」 「頼むから謎な設定を捏造しないで、俺が知ってたのも多分たまたまだし、対話もできないしノアでもないし。てか、お前そういうの好きだったんだ? もしかしてあのゲーム好き?」ゲームの名前を出すと彼は恥ずかしそうに口をつぐんだ。そして小さく「なぜばれたし」と独り言を言った。  そのマイナー性と魅力についてちょっと語りたくなっていろいろ話を出してみたら、相手もそれなりに返答を返してくれた。もっと早くに知り合っとけばよかったなあと思い始めたころに周囲が「いやゲームはもういいから現実の話しろよ!」と怒鳴ってくる。これ以上聞かれても何も知らないし答えられないし、こんなことなら昨日口にするんじゃなかったなと結局後悔しつつ、俺が見たものをできる限り鮮明に詳しく教えて、だから自分のやりたい過ごし方したらいい、できるだけ倫理から外れない程度にと付け加えるといくらかは家に帰り、いくらかは「ちょっとあの廃屋の窓ガラス割ってくる」と言って学校を去り、いくらかは恋人のもとへ行った。これで世界が終らなくて現実を継続するのに問題があるようなことが彼らのうちに起きたら俺のせいだ。  さっきのゲームの奴が今まで無口だったのを取り返すように執拗に例のタイトルの話をしてきて、若干うっとうしかったけれどもその短時間の成長に感動しなくもなかったので適当に相槌を打っていたら、一時間目開始のチャイムから大分経って来ないだろうと思っていた教師が教室にやってきた。 「えーと、あのですね、顔ですがね、えーとですね」  顔を赤くしてしどろもどろになっている若めの男性教師だ。担任ではなく、副担任。顔はよくて女子からの人気も高かったけれども、微妙にいけすかない感じの人だった。そのいけすかない理由がこういうときに出るんだなあと思いながら話を聞いている。  あまりにぐだぐだな状態だったので、ひとりが顔はいいから授業はどうなりますかと聞いた。あまり目立たない女子生徒で、教師の話の途中にこんなふうに声をかけたりしない子だったけど、副担と同じように顔を真っ赤にして聞いていた。混乱とか興奮とかのせいなんだろうけれど教室見渡すと結構な人数が顔を赤くしていてシュールだ。  副担はあるわけない、となぜか叱りつけた。うん、しかたないか。 「それで顔だけど、政府の人がなんか、えー、外国の人と話し合ってるらしいので、そのうち正体がわかるかもしれないです。で、どういう危険があるか不明なので今日は学校はなしです」  あの顔の何に危険を見いだすのかはよくわからなかったが、確かに不気味ではあるしなんだか国単位でそういう話になっているらしいのでもう突っ込むのはやめて意外と慎重にでたな、と思うにとどめる。  当然さようならの挨拶もなしに彼は出ていこうとしたが、クラスメイトの一人が「あの顔が起きたら地球滅亡なんだってさ」と声をかけた。彼は、「あははは。まさか」と怯えたような笑い方をして職員室へ帰っていった。  これを機にまたいくらかの人は教室を出ていく。教室に残ったのはいつもつるんでる友人が「これで終わりなんて」と泣きだしてこれまでの思い出を語り合い始めた女子グループと、家族が嫌いだと常々言っていた男子とその彼女、いまだに俺の話に納得せずねちねち聞いてくる人々、あとは「学校で一度はやってみたかった」を実践する愉快な人たち数人。ちなみにゲームの奴は帰った。家でゲームするらしい。  それと、昨日のあの子はまだ来てない。もしかしたら顔が本当に現れたことに驚いて、晒しものにしようと思っていた俺に会い辛くて学校を休んだのかもしれない。それ以前にテレビとか見て今日は学校はないと判断したのかもしれない。とにかく来ないだろう。 「二時間目って、なんだっけ」  女子グループの内の一人がそんな話をしはじめた。授業やろうとか言い始めて、なんとなくほっこりする。ねちねち集団はそれに猛反発し、じゃあそんなぐだぐだしてないでやりたいことすればと至極まっとうなことを言われ、怒って帰っていった。机と椅子でピラミッド作ってたやつらと黒板に卑猥な絵を描いていた奴らは授業賛成派で、「学校で一度はやってみたかった授業中編」を実行するつもりでいるらしい。二時間目は数学だ。  女子達は数学の授業をしてくれる教師を探しに職員室へ行った。学校は静かだ。  帰ってきた彼女たちが連れてきたのは数学教師ではなく理科教師だった。あの、窓の外を眺めていた人だ。  まず未完成のピラミッドを見て笑った。普段だったら確実に怒鳴ってるところだったが、今日はやたら優しく注意しただけだった。黒板についても描いた生徒たちに消すか消さないかを問い、消さないという返事を受けてその上から数学の板書を始めた。内容はセンターの過去問。そういうところはとても彼らしい。 「先生、なんで授業してくれたんですか」  授業が終わってから一人が聞いた。  彼はなんかせつなくなる笑顔で、「なんとなく今日でおしまいな気がした」と答えた。さすが理科教師の観察眼。敬服する。  三時間目は情報だったが、職員室にももうほとんど誰もいないらしい。授業をしてくれた先生も「残ってる生徒を帰らせます」という名目で女子生徒についていったと言うので、あとの教師がそれに任せて帰宅してしまっても仕方ないと言えば仕方なかった。そういうわけで、俺らは三時間目を勝手にHRとして、各自好きに過ごすことにした。そのときにも何人か家に帰ったが、それでも教室にはまだ十人近く人がいた。  三時間目開始時刻から十分ほど経ったころ、教室の扉がスライドした。全員が顔を上げそちらを見る。帰る人ばかりだったのできっとそうだと思い込んでいたが、逆で、登校してきた人だった。昨日の告白してきた女子だ。「おはよう」とクラスメイトに声をかける。それからまっすぐに俺のところに来た。 「おはよう」 「…おはよう。来ないかと思ってた」 「返事聞いてないし」 「ああ…」 「聞いてよ、バスが動いてくれなくってさ。いったん家帰って、親が引きとめるのを無理やりなだめて、初の自転車登校だよ。やっぱ世界終焉となると多難だねー」 「大多数が世界終焉って知らないと、おもうけど」 「そういえばそうか。あれ、ねえ、靴下左右でちがくない?」 「……クソ、おかしいな」  なんでこうなのか。クラスメイトは皆笑っている。でも、誰も口出しはしなかった。 「顔、気持ち悪くないと思うな、私。あ、一回日が陰ったときに肌が黒くなったの見た?」 「実際には見てないけど知ってる。でもやっぱ気持ち悪いって」 「気持ち悪くないよー、きれいだよ」 「昨日から思ってたけど、なんかつかめないね」 「何が? あ、距離とか?」 「キャラ。君の」 「ああ。いや、そんなことないって。ところで返事聞かせてくれる?」  俺は言葉が出てこなくなって困った。いや、断るつもりなんだけど、なんだか妙な静寂に緊張した。よくよく見まわしてみるとみんなしてこっちを見守っていて、静寂の理由はこれかと気付いて、ちょっと悔しくなった。  軽く深呼吸して、彼女を見据える。わるいけど、と言葉を始めた。 「昨日まで、よく知らなかったから、付き合えない」 「えー!!」「な、おかしいだろ!」「そうくる!?」クラスメイトの反応が怖い。  彼女はにこやかだった。 「じゃあ、言い方変えるね。世界が終わるまで隣にいてくれますか」 「………、えーと。俺」 「顔赤いよ」 「うるさ、もう、指摘しないで恥ずかしいから」言いながらなんとなく母親を思い出した。「その、俺でいいの?」 「そこ、『俺でいいなら』っていうところでしょ」 「あーあー。ん、俺で、いいなら」 「やったー!!」これはクラスメイト。  邪魔したら悪いからとかそういう理由でクラスメイトは他の教室へ行ったり帰ったりした。気を使われると表現が何であれ付き合ってるみたいだからやめてほしいんだけど、でもこの子と静かに話したいのは確かだったので一応その厚意に甘えた。  彼女は机と椅子のピラミッドを見て、すごいね、と一言コメントし、空いた机の上に座って膝を抱いた。俺もならって隣の机の上に腰掛ける。顔は教室の窓から見ることができた。 「ファンタジー」 「……うん」  相手の表情をうかがうが、彼女はどうもこの終焉に対しそれなりに満足しているようだった。こんなに意味不明な終わり方で、告白も一応失敗したはずなのに、ずいぶんと優しい笑顔で世界の顔を見つめている。  この子、本当に俺のこと好きだったのかなと少し疑問に思った。別に疑う理由はなかったけど、なんとなく信じ難かった。今日終焉だって知ってたのに、返答を先延ばしにしたり、というか、後悔のないようにと言っても断られるくらいなら伝えないままのほうがと思ったりしなかったんだろうか。  そういうことをぐるぐる考えていると、相手がぽつりとこぼす。「ぜいたく」 「は?」 「贅沢だなあって思って。私」 「……何が?」 「んー、本来なら告白して断られたとき、もう関わりづらくなるでしょ。それに、そのうち相手に彼女ができたりするとそういう……嫉妬?に耐えなきゃいけないし。でも今日で終わりだって私も君も知ってたから、失恋したのに一緒にいてもらえてる」 「……別に、…」  別に俺は、告白を断ったとしてもそのあと友達でいられる性格だ。そう言おうとしたら、告白されたときと同じような息苦しさを感じた。それに悩みながら、好かれてるかどうかを疑うのは失礼だったなと考えた。考えてるそばで、彼女は「あ、まつげ震えた」と顔を指さす。  もう起きるのかもしれない。つまりあと少しだということだ。 「たのしかったな」  呟きを聞いて、急に、さむくなった。視界の端にうつった世界の顔をもう一度よくじっと見つめて、その中に滅亡回避の何かが無いかと初めて、探した。  けれどそうしているうちに顔が起こしたことと言えば、先ほど彼女が指摘したように睫毛が震えるくらいで、しかもうすく瞼を持ち上げるから、耳鳴りがしそうだった。  ゆっくりと、瞳が露わになる。  しっとりとしたやさしい赤色をしていた。俺は初めてその顔に、好印象を抱いた。隣の彼女もまた肯定的な印象を感じたようで、嬉しそうな声音で、 「き
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