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目を閉じ、手を合わせてから踵を返す。サクサクと薄っすら積もった雪を踏みつぶしながら、すっかりかじかんだ両手をコートのポケットに突っ込み坂を下っていく。
そのまましばらく道なりに歩いていると、坂下からこちらへ向かってくる少女がいた。
その少女には見覚えがある。
思わず立ち止まった。この瞬間だけスローモーションのように時間がゆっくり流れる。キャメル色の装飾の少ないダッフルコートを着た彼女は、俺の姿を視界に入れているのか否か、刺すような視線を俺に向け横を通り抜けた。
岬から吹く冷たい海風が、少女の艷やかな黒髪を激しく揺らす。その美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……決めた。次は君だ──」
小さく呟いた声は、激しい風の音と、風に煽られ舞い上がる粉雪に吸収されて消えた。
早く家に帰ろう。海咲が待っている。ガラスケースの中の、俺が一番好きな表情を浮かべた綺麗な君が。
ついに言えなかったこの気持ちは、海咲に届いているだろうか?幼馴染という枠を超えた、好きという制御不能な感情は何もかも狂わせてしまった。
もし、俺と海咲が幼馴染じゃなかったら……。
もう何十回も考えて、未だに答えが出ていない問いかけ。でも、出会わなければ良かったとは思わない。アニメや小説の中だけの概念だと思っていたものが手に入ったのだから。
──永遠の愛。俺は沈めた海の中、それをガラスケースの向こう側に閉じ込めた。
これは、俺の愛の告白──。
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