告白

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♢♢♢  灰色の寒空の中、海がよく見える岬のそばで彼女は眠りについた。  早朝5時──。粉雪がちらつく真冬のこの時間に、ここに訪れる者はめったにいない。断崖絶壁の先端にそびえ立つ白い灯台の光が、薄暗い空を覆う雲に反射して天の光のように見えた。  遥か遠くの水平線に浮かぶ船を眺めながら、俺は持っていた花束を抱え直す。  彼女が好きな花、無垢(むく)な白百合の花束。昨日あらかじめ用意しておいた花だが、五分咲きだった花弁は一晩経って大きく口を開けるように反り返っている。  百合の濃厚な甘い匂いが、冷たい潮風と混じり合い頭痛がした。あの子の匂いだ。  ──島田海咲(しまだみさき)。去年の春先に亡くなった俺の幼馴染であり、同じ学校に通うクラスメイトでもあった女子。彼女の死亡現場は、この岬の下に広がる、白く泡立った濃紺の海の中だった。  伝統の紺色のセーラー服が映える白い肌と、深海のように吸い込まれそうな瞳を輝かせ、生前の彼女は色んな表情を見せてくれた。  しかし、それは突然標本になった。  ガラスケースの中に納められた豪奢(ごうしゃ)な人形のように、触れた指先に伝わるのは冷たくて固い無機質な感触。海咲は生気の無い人形になった。  学校側からの説明によると、海咲の死は不慮の事故ということになっている。春とはいえ極寒の海に落ちたらひとたまりもない、人気が少なく静かな場所で、地元の漁師により海咲の遺体は発見された。  暗い波間にゆらゆら漂う場違いなほど白い肌。生きていた時の頬の赤みは消え失せ、陶器のように真っ白で血の通っていない彼女の死に顔を、俺は毎晩夢に見ていた。  びゅうっと凍える風が吹き抜け、思わず全身が震える。さすがに寒い。感覚がなくなってきた指先を擦り合わせ、柵のギリギリまで近づき花束を置いた。  半年以上経った今でも、そこには弔いの品が供えられている。彼女の両親かもしれないし、クラスメイトかもしれない。流行りの飲み物やお菓子、少し萎びている花束の山の中に、俺は持っていた白百合の花束をそっと乗せた。
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