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◆◆◆
島田海咲──私のお姉ちゃんが死んで初めての冬が来た。
お姉ちゃんのいない冬。喧嘩することもあったけど、買い物したりメイク道具の貸し借りしたり、仲が良いことが自慢の姉妹だった。
リビングに飾られた仏壇は、艷やかな漆塗りの黒檀に反射する照明の光を歪める。その中に私の顔も歪んで映る。
お姉ちゃんが死んだ後、私達の家庭から笑顔が消えた。正確に言えば、心からの笑顔が消えたのだ。母親も父親もギクシャクしている。夕食を共にしても、無理をして世間話をしている。
こんな状況が苦しくて、悲しくて、悔しくて。しかも警察から聞いた話だと、海を見ようとして落ちてしまった不慮の事故だという。
そんな話、納得することなど到底できなかった。
お姉ちゃんはそんなことをする人じゃない。自殺をする動機だってない。その静かな強い怒りの炎が、ある一つの可能性を浮かび上がらせた。
──お姉ちゃんは殺された。
お姉ちゃんは他殺だったのではないか。次第にその気持ちを抑えきれなくなり、私はついに動くことを決意した。心配させたくなかったから、両親には何も言わず独自調査を始めたのだ。
周囲から話を聞く過程で、お姉ちゃんと親しかった野上翔也の家にお邪魔させてもらった。
彼がお姉ちゃんと幼馴染だということは知っている。お母さんとお父さんがたまに口にしていたから。何よりお姉ちゃんが嬉しそうに彼のことを話していた。
私も彼に遊んでもらったことがある。二人が受験生になる頃から、徐々に疎遠になっていったけれど。
生前のお姉ちゃんの話をもっと聞きたいという名目の元、私は彼の自宅を訪れた。彼の両親は共働きらしく、帰りも遅いため家族が揃うのは土日だけだと言っていた。そのことを気にする様子はなく、別に寂しくはない、と。
しばらくリビングで話していたが、特段変わったところはない。野上もお姉ちゃんと同じように笑顔で語ってくれた。
何回か通うようになり、その日も二人きりのリビングルームで話を聞いていると、野上が自分の部屋を見せてくれると言ってきた。
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