告白

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 何となく、本当に何となく……嫌な予感がしていた。そして──。 「これ、俺の宝物なんだ」  彼の部屋を埋め尽くす大量の人形を目の当たりにした瞬間、こいつだ──と思った。  私が困惑していると、彼はそんな私の様子には目もくれず自慢げに語り始めた。 「俺は昔から一人で留守番してくれることが多くてさ。父さんと母さんがいないことが当たり前なんだ。しかも俺はひとりっ子だから話し相手もいない。テレビに向かって話すのも好きだったけど飽きちゃってね……。酷く退屈な日々の中で、唯一楽しみだったことは海咲と話すことだった」  何でもないように振る舞っているが、両親がいないことはやはり寂しかったのだろう。そしてその気持ちを素直に言うことができなかったのかもしれない。  その点に関しては同情の余地が無くもない。だけど……。 「でもさ、毎日海咲と会うわけにはいかないし、彼女にも都合ってものがある。だから彼女の人形が欲しいって思ったんだ。幸いにもうちは裕福だし、両親も俺を放置していることに少なからず罪悪感を抱いていたんだろうね。安物の人形じゃなくて、ガラスケースに入れて飾るような立派な人形を頼んだらすぐに買ってくれたよ。初めて見たガラスケースの中の人形はすごく綺麗だった。綺麗過ぎて怖かった。ガラスの壁がもどかしいくらい、触れたくてたまらなかった。あぁ、でもガラスケースから出すことはしなかったよ。綺麗な瞬間をそのまま凍らせたような美しい人形を汚したくなかったから」  うっとりするような目つきでガラスケースをなぞる彼に、私は吐き気を覚えた。胃の辺りからせり上がって来る酸っぱいものを、生唾を飲み込んで耐える。  薄暗いこの部屋の温度が急激に下がったような気がしたのは、たぶん私の体温が下がったせい。  何も言えず黙り込む私をよそに、彼は語り続ける。 「お気に入りの人形と話すのも良いんだけど、それじゃ物足りなくなってさ。どうせなら本物の海咲そっくりな人形が欲しいと思って、オーダーメイドで作ってもらったんだ。両親は近所付き合いに関心が無いから海咲のことはあまり知らない。だから、俺が幼馴染そっくりの人形を作ったなんて全く気づいてなかった。本当に楽しいんだ。"彼女"と話すのは……」  ──異常者。  かつてお姉ちゃんが語っていた野上翔也に抱いていたイメージが、ぐにゃぐにゃと歪んでいく。愛情の欠乏。それは人格を大きく捻じ曲げてしまう。  彼はそう、きっと愛情が欲しかったんだ。愛を知らないから愛のために何でもできる。愛を知らないから善悪を無視できる。
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