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「だからこの人形が本物の海咲だったらいいのになって、強く思ったんだ──」
真実なんて分からない。
彼が"やった"という証拠もない。
結局、それ以上のことは聞き出せなかった。そして今に至る。岬の先端、チープな柵の向こう側に沈んだお姉ちゃんを弔うため、私は生前のお姉ちゃんが好きだった菊の花束を抱えてその場所に向かっていた。
そうしたら、あいつ──野上翔也とすれ違った。
彼も弔いに来たのか、肩が薄っすら白くなっている。私は彼を睨みつけた。精一杯の憎悪を込めて。
お互いに無視して、そのまますれ違った。
すれ違いざま、野上から甘い香りがして私は思わず振り返った。
野上は私を見なかった。でも今ので確信した。やっぱりお姉ちゃんを殺したのはあいつなのだ。
『この海咲には白い百合が似合うと思わない?』
あの時の彼は、お姉ちゃんそっくりの人形に向かってそう言った。お姉ちゃんは百合なんか好きじゃない。好きなのは菊の花だ。
でも、彼からは百合の匂いがした。あいつは……あいつの中の理想の海咲の人形に似合うのものを渡したんだ。
私は唇を噛んだ。血が滲むほど強く、強く。
「いつか絶対に暴いてやる。私の身を使ってでも絶対に──」
あいつが犯した罪と、助けられなかった私の罪。
これは私の罪の告白──。
了
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