独白3 そして

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独白3 そして

 祖父が亡くなり、祖母が居なくなった家では親子3人の生活が待っていました。  私は家から通える大学に進学しました。  父はその頃からあまり家に帰ってこなくなりました。  私ももう大学生でしたから父が外で何をしているのかは大体予想がつきました。  ギャンブルにはまっているか、母の他に外に女の人ができたのでしょう。男の人のすることと言ったら多分その程度でしょうから。  あ、失礼、あなた方も男性でしたね。  私が父にできる事はありませんでしたが、父はその頃から給料をちゃんと家にいれなくなっていました。その上、祖母は自分の年金以上にお金がかかる老人介護施設に入っていたので、父の通帳からはどんどんお金が引き落とされて行きました。  母は、父の通帳とカードを預かってはいましたが、勿論、父もおなじ通帳からお金をおろせるカードを持っていて、勝手にどんどんお金をおろしてしまうのです。  これは、申し訳ないけれど、祖母にもう少し安い老人介護施設に移ってもらうほかありません。だって、自分の息子が払えるお金を超えてしまっているのですから。  私は祖母に相談しに老人介護施設に尋ねて行きました。でも、祖母は今の豪華な老人介護施設がとても気に入っていたので、安い施設に移る事などは承知しませんでした。  仕方ありません。お金を支払うのは父なのですから保証人の父が施設をでる手続きをすれば出ざるを得ませんよね。  私は施設の方に、施設異動希望の用紙を頂き、家で書いてきますと言って、用紙を家に持ち帰りました。  そこで家に帰ると、色々な書類が入っている父の引き出しを開け、銀行印を実印で押していることを知ってもいたので、父の署名が乗っている書類をコピーし、施設の用紙を重ね、父の筆跡の上から私がサインをし、銀行印を押しました。  そして、施設に提出すると、祖母は散々家にも電話をしてきたりして、文句を言っていましたが、頼みの父は家にはほとんどいないし、母には何のことか全くわかりません。その頃の祖母ときたら、自分の思う通りにならないからと、興奮してしまって言っていることが支離滅裂でしたから。  用紙があるからには施設としても仕方りません。施設も父に連絡を取ろうとしましたが、どうにも連絡が取れず、父が勝手にお金をおろすので、施設での引き落としも何か月か滞っていたので、施設異動を余儀なくされました。  祖母は、これまでとは比べ物にならない粗末な老人介護施設に移されたことがショックだったのか、場所が変わったことが悪かったのか、まもなく痴呆が進み、自分の食事ではない固い他の利用者の食事を食べたことが原因で誤嚥性肺炎になり、亡くなりました。  父はそうなって初めて、 「祖母がなぜ施設を移っていたのかがわからない。」 「なぜ、自分に言わなかった。」  と、母を責めましたが、施設の方も口添えしてくださり、結果として、費用がきちんと支払われなかった為、祖母は施設を移らざるを得なかったと父を説得しました。  自分の両親ともいなくなってしまった自分の生家。そんなことになっても父は家には戻ってきませんでした。  そして、母が買い物に行っていて、私が大学に行っている間に家に来て、離婚届を置いてそれきり自宅には戻りませんでした。  その後、私は地元の銀行に就職し、13年間結婚もせずに銀行で働きながら母を養い、過ごしてきました。  母はきっと若い頃から働き過ぎたのでしょう。世話をする人がいなくなり、家に昼間は一人でいるようになってから若年性アルツハイマーになってしまい、私一人では面倒が見られなくなったので、今は専門の施設に入所しています。  さて、刑事さん達、ここまで口を挟まずに聞いていただいてありがとうございました。  本当なら刑事さん達が私にいろいろ質問するのが取調室ですものね。  でも、バラバラに聴かれるより、私が思った通りに話した方が分かりやすいと思ったのです。    そして、今日、私が自首したのは、祖父を未必の故意で殺してしまったかもしれないとずっと思っていたからです。  小学校の時の従兄弟の事は、事故ですよね。それはもちろん、私はちょっと従兄弟を押したかもしれません。でも、殺すつもりなんてなかったし、川に落ちても死ぬなんて思っていませんでした。そもそも小学生ですしね。  祖父の時も早くご飯を食べてほしかっただけで、のどを詰まらせた後だって、ちゃんとトントンして喉は通してあげたんです。その時、脈までは確認しませんでしたけれど、それは生きていると思っていたからです。  次に祖父の部屋に行った時にはすぐにお医者様を呼びましたけれど亡くなってしまっていたんです。ただ、祖父の事は少々疎ましくは思っていました。私の時間を削るのですから。  こういうのを未必の故意って言われてしまうのでしょうか?  祖母は勝手に誤嚥性肺炎で亡くなったので私とは関係ないですし。    私、自分がうっかりだとしても祖父を殺してしまったのかと思うと、いてもたってもいられなくて、自分の気が済まなかったんです。  だから、今、母も家からいなくなり、母の面倒を誰も面倒を見る人間が居なければ福祉の手が伸びるはずなので、やっと自首することができたんです。  早く、調査をして判断を下してほしいんです。未必の故意による無罪だったって。  丸山わかなは、自分の思い通りに人生を運びたくて本日近隣の警察署へ自首してきて、刑事たちに告白をしたのだった。 【了】    
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