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いつもより早い時間に帰っているせいか、暑苦しい風が顔にまとわりつく。
息を切らしながらも勢いよく角を曲がると、バス停の横には彼の後ろ姿があった。
よかった、これで堂々と神埼くんに声をかけられる――が、彼はまた透明な誰かと一緒にいるようだった。彼よりも小柄な子の肩、もしくは子どもの頭に手を乗せているように見える。……私には視えないけど。
ど、どうしよう。
終わるのを待つとしても、彼がもし振り返れば私の存在に気づかれる。それこそ、『なに見てんだ!』となるかもしれない。
いや、そんなことは思わないだろうけど、じっと見られているのも気分良くはないだろう。
――――よし。
先程より重く感じる足で歩道を渡り、呼吸を整えながら心を決める。
「神埼くん?」
ビクンと肩を震わせた彼が振り返ると、決して長くはない黒髪がサラリと揺れた。だがその表情に爽やかさはなく、視線もすぐに足元へと逸らされる。
「見た……?」
あっ、タイミング間違ったかも。
「あ――えっと、これっ!」
胸に抱えていたノートを差し出し、なんとか場を取り繕う。
「さっきね、先生から預かったの」
「……見た?」
2度目の質問は、最初よりも不機嫌そうだった。
「ノートの中は見てないよ! 大丈夫ッ!」
「じゃあ、さっきのは見られてたんだね」
ああ、また失敗。
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