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「……ごめん。でも誰にも言わないよ、大丈夫! 安心して!」
考えるよりも早く口が動く。手ぶらになったおかげで、両手も勝手に動く。でも、彼の顔だけは怖くて見れない。
「あ、あれだよね。私達には視えないし、色々大変なこととか多いよね?」
「……は?」
怪訝さを帯びた声に顔を上げると、彼の切れ長な瞳もこちらを向いていた。
反射的に目線を落とし、距離をとるようにずい、と右手のひらを押し出す。
「あっいや、だから……ね? うん、大丈夫、誰にも言わないよ? でも凄いよね。私そういう人に会うのって初めてで、最初はちょっとビックリしたんだけど」
もう、自分でも何を言っているのかわからない。
「ごめん、何のことかわかんない」
「だよね自分で、も――え?」
「見えるってなに?」
彼はさっきの怪訝そうな雰囲気とは違い、ただただ不思議そうに、むしろ戸惑っているかのように首をひねった。
「視えるんでしょ? その、幽霊とか……妖怪的な?」
「え? 見えないよ、そんなの」
互いに呆然と見合い、目を瞬く。
身体中の熱がぶわっと顔まで上がってくると、同時に、堰を切ったように彼が笑い出した。
「ごめん、ふっ……笑うつもりはないんだけど……フフッ……ご、ごめんちょっとストップ!」
口元を覆っていた手を腰へ移した彼が、背中を丸め、深く息を吐く。
彼が俯いているこの隙に、穴を掘ってでも隠れたい。秘密を知ったつもりで優越感に浸って、私はバカだ。
「――――ふぅ。ごめんね、あまりにも予想外だったから」
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