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涼しげに微笑んだ彼がベンチへ腰を下ろす。その言動に普段のような壁がなくても、何食わぬ顔で隣に座れるほどの勇気もない。
「……え、ちょっと待って。……いつもここで不思議なことしてた、よね……?」
「うわっ、うそ! いつも見てたの?」
キレイな二重の瞳が大きく開き、見る見るうちに頬がピンクに染まっていく。彼自身もその熱に気づいたのか、“図書ノート”で顔を隠した。
「ちょっ、ごめん。今こっち見ないで」
――――あ、カワイイ。
黒髪の隙間から見える耳までほんのり赤らんでいて、知らない彼の姿にまた胸が高鳴る。
私はなんとか平静を装いつつ、本当は何をしていたのか尋ねた。
「あれは……ね、告白……の練習?かな」
「え?」
――――ちょっと待って。
どういうこと? つまりは、好きな子がいるってこと? 神埼くんにこんな可愛い仕草を取らせる人が?
1年近く片思いしてる、ってことだよね……。
「いや、ほら、いろんなシチュエーションが考えられるじゃん? だから、ね? やっぱりカッコよく決めたいし」
私が黙ってしまったせいか、饒舌に、照れくさそうに彼が沈黙を埋めていく。
そっか。私が彼を目で追ってしまうように、彼もまた、人知れず誰かの姿を追っていたらしい。いつも見ているつもりだったのに、私は何も知らなかった。
何かを悟ったような清々しさと、顔もわからない彼女への嫉妬。その2つが胸をざわつかせながら、心の領地を奪い合う。
「ねえ、私が練習相手になってあげようか?」
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