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「あっ、これはまだ違うから! こんなシチュエーションは想定してなくて」
顔を上げると、気恥ずかしそうに眉を下げる神埼くんがいた。
「あのさ、前に声かけてくれたことあったの、覚えてる? ずっと謝りたかったんだけど、タイミング掴めなくて。あのときは素っ気ない態度取ってごめん」
私こそっ――そう心で思っても声が出ず、きゅっと唇を噛み締める。
できることなら、忘れていてほしいと願っていた。
なかったことにしたかったのに、不思議だ。彼が覚えていてくれて、すごく嬉しい。
「か、神埼くん……また声かけてもいい?」
「俺も。……佐伯さんのこと教えて。好きな本とか」
くすぐったさと戸惑いと、何だかよくわからない居た堪れなさを隠すために、またノートに視線を落とす。文字なんて頭に入ってこなくても、ソレだけは違った。
女の子らしきイラスト――と、横には【佐伯絢さん】。
「ふふっ」
「え、なに? 何か変なこと書いてあった?」
慌てて取り返そうとする彼を遮るように両手でノートを抱え、勝手に綻んでしまう顔を精一杯引き締める。
「何でもないよ?」
パーフェクトだと思っていた彼の新たな秘密。それは、実は絵があまり得意ではないこと。
――あと、照れた姿がすっごく可愛いコトッ!
―fin―
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