彼の秘密

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むしろ疑問なのは、なぜわざわざ貸し出し手続きをするのか。 『読み終わらなかったら持って帰るつもりじゃない?』 『読書記録として残してるんでしょ』 『委員の仕事を増やす“嫌がらせ”……なんてね』 この謎行動がいつから始まったのか、気づいた時には、図書委員にとって共通の話題になっていた。最終的には『退室ギリギリでの手続きを避けるため』ということで落ち着いたが、私は持ち帰っている姿を見たことがないので、真相は不明。 遠ざかっていく彼の後ろ姿をドアの小窓越しに眺め、小さくため息を吐く。 図書室から彼がいなくなったあと、施錠の準備をしている時は、いつも気が重くなる。帰り道にいたっては、足まで重い。 大通りから外れた片側一車線の通りへと曲がる直前、私は角に隠れてもう一度息を吐いた。 物陰から顔だけを出し、道路の向かいにあるバス停を伺う。 簡易的な雨除けが備わったベンチ付きの停留所は、オレンジ色の夕日を浴びながら、ぽつりとそこにあった。 既にバスが行った後なのだろう。数台の車が横切るだけで、道端に人影はない。 ――――よかった。 彼が真剣な表情で机に向かっている姿も、男友達に肩を組まれてじゃれている姿も、“見飽きる”なんてことはない。ただ、はある。 今からちょうど1年くらい前――図書委員になって半年が経ち、一人でカウンターを担当することも増えてきたある日、当番帰りに彼を停留所で見かけた。 電車通学が多い我が校では、バスを利用する人は稀だった。本数が少ない上に遠回りして駅を経由するため、駅へ行くとしても歩く方が早い。だから私のような徒歩通学と比べても、バスを使う生徒はかなり限定されている。
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