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ここで一つ謎が解けた。
放課後の図書室に彼が訪れる理由――それは、時間調整なのだろう。
彼は、沿線から離れた場所に住んでいるに違いない。彼はきっと、授業終わりに慌ててバス停まで走るよりはと、定刻まで図書室で時間を潰していたんだろう。
……なんて、そんな事に考えを巡らせていたのは、その日の夜の話だ。あの時に見た光景はあまりにも不思議で、私は呆然と眺めているしかなかった。
道路の向かい側で、一人でバスを待つ憧れの人。彼は、遠くから見ても明らかに様子がおかしかった。
この日は夕方から雨予報になっており、実際に下校時間には雨が降り出していた。
日中の暑さには嫌気が差すが、それでも、陽が陰り始めると涼しさも感じられる日々。雨に濡れれば下手したら風邪をひく。そんな可能性が頭をよぎるほどの季節にはなっていた。
だからこそ、傘も差さずに道路に背を向けて立っている人がいれば、それは不自然でしかない。
この時点では、同じ制服を着た“変な人”だった。シルエットこそ似ていても、それが神埼くんだとは思えなかった。
横の屋根付きベンチには、彼の物と思われる鞄と傘がちゃんとある。にもかかわらず、彼は雨に打たれながら動こうとしない。
何をしているのかと様子を伺っていると、彼は突然慌てたようにベンチへ駆け寄り、立て掛けてあった傘を取った。
いまさら雨に気づいた、というわけじゃないだろう。その仕草は、誰かに傘を差してあげているような動作だった。
――長い手足も、ビニール傘から垣間見える横顔も、神埼くんで間違いない。
隙一つないような人が、たった一人で、何やら押し問答をしているかのごとく傘を揺らす。何かを追うように踏み出したかと思えば、引き返して傘をベンチへ戻し、肩を落とす――。
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