5人が本棚に入れています
本棚に追加
朝、黒板の右端に書かれた【佐伯絢】の名前を見て、ため息を一つ吐く。
日直の日は、授業毎の号令に黒板消し、日誌作成にと面倒なことばかりで憂鬱だ。男子と2人で――なんて漫画みたいなことはないし、そもそも神埼くんとはクラスが違う。そんな想像をしても虚しいと分かったので、夢見るのは最初の1回で辞めた。
今日は図書当番じゃないから、神埼くんの姿を拝める可能性も低い。
こんな日は、昼休みに最後の希望を託す。
部活をしている子や塾通いの子など、図書当番を交替して欲しい人がいると、私は率先して引き受けてきた。今では先輩後輩に関係なく、代わって欲しい人は昼休みに佐伯まで、が暗黙のルールになっている。
もちろん完全な運任せなので、サラッと予鈴が鳴り、午後の授業がはじまることも少なくない。
…………今日みたいに。
放課後になると、友人達との雑談を一通り済ませ、数人だけが残っている教室で黙々と日誌を書き始める。黒板の日付けと日直の名前を書き換えたら、業務終了。
『今日の分も、明日はたくさん会えますように』
心で唱えて、日誌を片手に教室を出る。
神埼くん目当てで図書室に向かうこともできるけど、それはしない。好きで図書委員をやっている私にとって、それは違う。
明日会えればそれでいい。
――と思っていたが、今日はまだ終わっていなかった。
日誌を職員室へ届けに行く途中、その廊下の奥、図書室のドアから、本を鞄に入れながら出て来る神埼くんが見えた。
――――やった!
最初のコメントを投稿しよう!