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第1話(その2)
鳴り物入りのスコールが小降りになった頃、見るからに不思議な集団が店の前にやってきた。
古びたランクルが減速して路肩に停まると、後部座席からサリーを羽織った婦人が一人降りてきた。その後に少女が二人つづく。見れば車を先導するようにバイクが二台、それぞれ若者が二人乗って停車していた。
一同は仲間なのであろう、婦人と若者、それに少女が店のテラス風になった入り口に集まって、店の中を窺いながら話しあっていた。
やがてサリーを羽織った婦人が先頭に立って、入り口に立つ。
ヨーロッパ製だという背の高い一枚物のガラスドアが押し開かれ、一行が続々と入ってくる。それと同時に、クーラーの効いた店の中へスコールの湿気がどっと押しいってきた。
「いらっしゃい、ませ……」
レジで駄弁る子らに先立ち、一番入り口に近い私が声を掛けながら、ぞろぞろ入って来る集団を迎え入れた。
「あなた――、日本人……?」
と、婦人が問いかける。上品な声、ただ片言の日本語だった。そのサリーを羽織ったコケチッシュな面差しの婦人が、外見より若い声で口火を切った。
「はい……、そうですが……」
少し歯切れの悪い物言いをした私は、笑顔で近づく売り子を押しとどめた。店は日本の百均商品がメインだが、集団の持つ雰囲気は買物客には程遠く、彼らの入店目的が伺い知れなかったのである。
「なにか……?」
「私の――アキラ、Cancerです。助けて下さい――」
最初私は彼女の言葉の意味が分からなかった。英語はともかく、初手から聞く気がなかったのかも知れない。だが私の反応を見て、売り子のマリナが前に出た。その途端に婦人はなにを訴えはじめる。
マリナは雇った時から利発な子だと思っていたが、やはり天性なのか人の顔色を読む。だがそれで店が繁盛するかというと、話は別なのである。
それはともかく、私は黙って待った。やがてマリナが婦人の言葉を訳しはじめた。だが彼女の日本語はたどたどしく限界があった。
「英語でいいよ」
と、私が言うと、彼女は歌をうたうように喋りはじめた。
聞けば婦人の夫は日本人で癌に掛かっているらしい。だが連絡がつかないので助けて欲しいと、概ねそんな話だった。
だが(それがどうした)と、正直私は思った。癌は気の毒だが、見ず知らずの男に連絡をつけてくれと言われても、雲を掴むような話だった。
だがその思いが私の顔に出たのであろう、婦人がなにか激しく言った。それをマリナが自分のことのように訳す。婦人のクメール語に被せるように同時通訳をする。それで意味が分かった。
夫は名古屋の病院に入院していて、お金がないのでカンボジアへ来られない。航空券を送りたいのだが、婦人の携帯では日本へ掛けることが出来ないので、代わりに電話を掛けて欲しいと言うのだ。
だが私は(なんで……)と、また心の中で毒づいた。
だが途端に、目の前に立つ婦人の表情が変わる。
(この国の人はみんな、人の心を読むのか……)
と、私は思った。
薄々自分の心情が、尋常ではないことを知りながら。
(つづく)
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