7

2/2
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 冷たい北風が音を立てて私たちの間を吹き抜ける。私はしばらく言葉を失っていた。  これはなんの冗談だろうと思ったが、先輩の目は真剣だ。   「えっと、私そんなこと言いましたっけ」 「言ってたよ。ほら前に『年上の方って憧れます』って」 「あ……」  そういえば言ったかもしれない。  確かあれは先輩の好みを聞き出すためのものだったはずだ。あのセリフにそれ以上の意味はなくて、すっかり忘れてしまっていた。  でも、先輩はずっとそのことを気にしてたんだ。 「……あははっ」  思わず笑い声が漏れた。ほんと何やってるんだろう。  二人揃って勘違いして、追いかけっこみたいに必死になって先輩を取り合って。  私たちはずっとお互いを見つめ続けてきたのに。 「……私、飛び級やめます。だから先輩もやめてください」 「え、いいの? 日下さんせっかく頑張ったのに」 「もういいんです」    私は先輩の目を見た。その両瞳には私がしっかりと映っている。  それなら、もう何もいらない。 「一緒に高校生活めいっぱい楽しみましょうよ、先輩」  私は先輩の冷えた手を取る。彼は驚いた様子だったが手は離さなかった。  ――はじめよう、ここから。 「よし。じゃあ早速行きますか」 「え、どこに」 「カレーパンパーティーするんでしょ?」  私は微笑むと、先輩は苦笑した。  この先、私たちの行く場所で何が起こるかなんてわからない。でもそれでいい。  これから二人で一緒に一ページずつゆっくりと捲っていこう。一人で先に行くなんて許さないんだから。  私たちの青春はネタバレ厳禁だ。 「ほら行きますよ、博臣先輩」 「早速覚えたての名前で呼ぶんじゃない」  私が手を引くと、先輩は小さくため息をつきながら隣に並んだ。 (了)
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!