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冷たい北風が音を立てて私たちの間を吹き抜ける。私はしばらく言葉を失っていた。
これはなんの冗談だろうと思ったが、先輩の目は真剣だ。
「えっと、私そんなこと言いましたっけ」
「言ってたよ。ほら前に『年上の方って憧れます』って」
「あ……」
そういえば言ったかもしれない。
確かあれは先輩の好みを聞き出すためのものだったはずだ。あのセリフにそれ以上の意味はなくて、すっかり忘れてしまっていた。
でも、先輩はずっとそのことを気にしてたんだ。
「……あははっ」
思わず笑い声が漏れた。ほんと何やってるんだろう。
二人揃って勘違いして、追いかけっこみたいに必死になって先輩を取り合って。
私たちはずっとお互いを見つめ続けてきたのに。
「……私、飛び級やめます。だから先輩もやめてください」
「え、いいの? 日下さんせっかく頑張ったのに」
「もういいんです」
私は先輩の目を見た。その両瞳には私がしっかりと映っている。
それなら、もう何もいらない。
「一緒に高校生活めいっぱい楽しみましょうよ、先輩」
私は先輩の冷えた手を取る。彼は驚いた様子だったが手は離さなかった。
――はじめよう、ここから。
「よし。じゃあ早速行きますか」
「え、どこに」
「カレーパンパーティーするんでしょ?」
私は微笑むと、先輩は苦笑した。
この先、私たちの行く場所で何が起こるかなんてわからない。でもそれでいい。
これから二人で一緒に一ページずつゆっくりと捲っていこう。一人で先に行くなんて許さないんだから。
私たちの青春はネタバレ厳禁だ。
「ほら行きますよ、博臣先輩」
「早速覚えたての名前で呼ぶんじゃない」
私が手を引くと、先輩は小さくため息をつきながら隣に並んだ。
(了)
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