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「日下さんどうした。そんなに勉強なんかして」
「自習室で勉強しない方がminorityなんですよ宇和先輩」
「早速覚えたての英語を使うんじゃない」
私の前の椅子の背もたれに腰掛けるようにして立つ宇和先輩は顔を歪ませた。
うちの学校に自習室はいくつかあるが、この教室にはいつも私と宇和先輩の二人しかいない。
原因は先輩がいつも持っているカレーパンだ。カレーの匂いに食欲がそそられ勉強が手につかないから、と他の生徒は寄り付かない。
「日下さん。これは先輩からのアドバイスだけど、勉強ってのはイザという時にやるもんだよ」
宇和先輩は手に持ったカレーパンを一口齧る。
それは購買で売っているものだ。中等部に入りたての頃、あまりの美味しさにもう二度と見たくないくらい爆食いしたので今の私はそのカレーパンに一切の魅力を感じない身体になっていた。
「イザっていつですか」
「テスト前日とか夏休み最終日とか」
「それもう手遅れですよね」
これでも宿題を提出し遅れたことがないのが自慢だ、と得意顔をする先輩を無視して私は英語の問題集を解き続ける。
「なんで先輩は勉強しないのに毎日自習室にいるんですか」
私は宇和先輩に尋ねた。
先輩は何をするでもないのに、いつも私よりも早く自習室に来ている。
「ちょっと足が滑って」
「それ受験生には絶対言っちゃダメですよ」
「ああ、ごめん。そういえば日下さんは三年生だもんな。高校受験はないけど高等部に上がる試験はあったっけ」
ちらりと宇和先輩は私の机を見て「あれ」と抜けた声を出した。
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