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飛び級制度、というものがある。
優秀な生徒がその能力に応じて、教育課程をスキップできる制度だ。欧米など多くの国で採用されている制度であり、九歳の子どもが大学に入学した例もある。
日本ではあまり普及していない制度だが、うちの学校は違った。
『毎年度末の期末考査にて次年度分の学力をすでに備えていると認められた場合、次年度の教育計画を免除し学年を繰り上げることを可とする』
これがうちの学校の特殊な校則である『校内飛び級制度』。
冬の期末試験で現学年とひとつ上の学年のテストを同時に受け、すべての科目でトップクラスの成績を残せば学年を繰り上げることができる。
私立の中高一貫校だから為せることだが、今までそれを使おうなんて考えたこともなかった。
私がそれを意識し始めたのは、ある噂がきっかけだ。
「宇和先輩、人にとって大事なものってなんだと思います?」
「なんだよ急に。さっきまでのカレーパンの話はどうした」
「いいじゃないですかそんな話。カレーパンの話が大事なときなんて、世界でカレーパンの輸出入が禁止されたときくらいですよ」
「カレーパンって世界中で取引されてんの?」
じっと自分の手に持つカレーパンを見つめる宇和先輩。
いろいろな角度からカレーパンを眺めて「これは国産か……?」と呟いている。それは国産です。
「話を戻しますね。人にとっての大事なものは富ですか? 名声ですか? それともSNSのフォロワー数ですか?」
「そんな表面的なものじゃないだろ」
「そうですよね! さすが先輩!」
「なにその盛り上がり。こわい」
先輩の答えを聞いて私は机の下でガッツポーズを取る。
やっぱりあの噂はガセだったんだ。
「大事なのはもっと本質的なものですもんね。身長とか年齢とかじゃなく」
「まあそうだろう。最後は結局中身だ」
「そうですよね。年齢なんて些末ですよね」
私は何度も大きく頷いた。
そうだよ。大事なのは中身。年齢じゃない。そうに決まってる。
「まあでも統計的に見れば、年齢の増加と内面の成長は比例しがちだよな」
「ん?」
「なぜか年上は大人に見えるし、年下は子供に見える」
宇和先輩はカレーパンを一口齧った。
私は急に不安に襲われる。やっぱりあの噂は本当なのかもしれない。
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