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「年上の方って憧れますよねー」
噂の真偽を確かめるべく私はカマをかけた。
これで否定的な返事を得られれば偽だろう。さらりと自分の気持ちも匂わせておくという合わせ技だ。
「あー、そうかもな。年上ってまず落ち着きがすごい。何があっても動じないというか、本人は焦っててもそれを表には出さないというか。そういうことができる人だと傍にいてもすごい安心感あるよな。あと逆に普段しっかりしてる大人が弱ってたり頼られたりするのもそれはそれでいい」
「年上大好きじゃないですか」
がらがらと何かが崩れた音がした。私の明るい未来予想図かもしれない。くっ、やっぱり噂は本当だったか。
宇和先輩は、無類の年上好きなのだ。
「いや決して年齢で人を判断してるわけじゃないぞ。あくまで統計的に見てのことだから」
「はいそうですね」
「絶対わかってないな?」
宇和先輩はまだ何かわーわー言っているが、もう私の耳には届いていなかった。絶望が私の耳を塞いでしまっている。
私の片想い中の先輩は、後輩は眼中にないらしい。
ごりごりと何かが粉末状にすり潰される音がした。私の明るい未来予想図かもしれない。
ああ、と天を見上げる。何かあるの、と先輩も私の視線を追って上を見た。
「神様がいないかなと思いまして」
「天井しか見えないけど」
先輩の言う通り、自習室の色褪せた天井には神も仏もいなかった。
だってどうしようもない。年齢なんてどうにもならないから。
……でも、やだな。
私はどうしても諦めきれなかった。たとえそれが粉末状の欠片を繋ぎ合わせて元の形を取り戻すくらい不可能に近いとしても。
「あ」
そのときふと、あの飛び級制度が頭に浮かんだ。
もしも私が飛び級できれば来年は先輩と同じ学年になる。先輩は早生まれだったはずだから、私よりも誕生日は遅い。
……つまりこれは、私のほうが年上ということになるのでは?
「見つけたかも」
「え、うそ神様? 神様か⁉」
きょろきょろと視線を振る先輩を放って、私は鞄の中の教科書をすべて机に広げた。
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