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「校舎とカレーパンってどうしてこうも違うんだろうな。どちらも人が作ったものなのに校舎は冷たくて、カレーパンは冷めてもどこか温もりを感じる。作り手から僕の元に届くまで随分かかるだろうに、どうしてまだあったかいんだろう。これが想いの差ってやつかな。それともまさかこれがターメリックの真の力なのでは」
「ちょっと静かにしてもらっていいですか先輩」
先輩の言葉を断ち切ると、誰のいない廊下が一気に静寂に包まれた。
二人の足音が響いて、壁に吸い込まれる。
「今日の日下さんは校舎くらい冷たいな」
「だからピンとこないんですよねそれ」
「こなくていいよ」
宇和先輩は小さく笑った。
先輩がペラペラと他愛のないことを喋り続けているのは私の気を紛らわすためだろう。そのくらいわかる。
この静けさに包まれてしまえば私はきっと不安に襲われる。
絶対に大丈夫、と言えるほど、結果に自信はなかった。
「ねえ先輩。もしも自分の必死の努力が報われなかったら、先輩はどうしますか」
暗い廊下の先に扉が見える。
あれを抜ければ渡り廊下があり、中央の掲示板に結果が張り出されているはずだ。
足が重い。
私の懸けた時間に意味はあったのか。その答えがそこにはある。
「そんなの決まってる」
私よりも少し後ろを歩く宇和先輩の声が私の背中に届く。
「一晩中泣いて、朝になったらカレーパン買いに行くんだよ」
光の差す扉を抜ける。
眩しさに目が眩んだ。冬の風に前髪が靡く。
見ていなくても、にやりと笑った先輩の顔が浮かんで私も思わずほころぶ。
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