静まり返るこの家の中で

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『女性を刺した犯人は未だ逃走中……』 『まさかこんなことするなんて思わなくて んー、優しいっていうか優しくはないか とにかく大人しい…… 無口な人でした』 私は、田舎から最近都会に引っ越してきて テレビのそんなニュースに はあ、怖いとこだわやっぱりと呟いた。 煎餅をボリボリと音を立てて食べながら 鍵かけたよね?と不安になり玄関にむかう。 自分の住んでた頃では常に鍵はあけっぱで 近所のおばさんが勝手にあがってはくつろいでたり野菜をおすそ分けしてきたり そういう世界だったから いまいちこちらには馴染めない。 何度かガチャガチャとやり、しまってる鍵を確認すると居間から 泣き声が聞こえた。 娘の、光の声だ いやいや期なのかすぐに泣いてしまう。 「あーはいはい」 「やー!これやー!赤い車のがいいの」 「人形さんじゃなくていいの?」 「いい!」 面倒をみて、夕飯の支度をして 「はあ……」 ……そんなことをしてるうちに疲れてソファでねてしまった 起きたのは 足音で、だった 「?」 2階から足音がする 旦那が帰る時間にははやい。 けれどあきらか、誰かの歩き回る音がのしのしと 玄関は確認した でも ……そういえば、換気で二階の窓を開けっ放しじゃなかったろうか? うちの家の構造は、塀や木を利用すると 上からあがれなくもないのだ 鍵を忘れたときに一回やったことがある。 「…………」 バタ、ガサ、どたたっ 私は寝てる娘を抱っこし、とりあえず外に逃げようとした。しかし…… 廊下を走っていると階段からおりてきたのだろう 男と鉢合わせしてしまった 「ッきゃ……」 おそらく犯人は二階でものをあさっていて、家に誰もいないもおもっていたのだろう しかし私が一階でごそごそたてた物音に反応して降りてきたのだ 鋭利な刃物が私にむかう 私の意識はそこで途絶えた。 「……ん、ううーん」 『女性を刺した犯人は未だ逃走中……』  テレビの音 私は目をさます、娘は寝ていた あーあ、ニュース見ながら寝たせいで怖い夢をみたのね 私はテレビを消して、2階に行き戸締まりをした。 「大体なんなのかしらねああいう犯人ってためこんで爆発する前に相談とか気分転換とか 自分でできないのかしら」 私はハキハキ意見をいえるタイプだし 本当にそういうことしでかす人の気持ちがわからない。 大体、どんな理由があったとしても やっちゃだめだし まあある意味注意喚起というかいい夢だったかもね…… たまたま逃走犯がうちにあがりくる可能性だってあるんだし そう思っていると 下から、物音がした そして切り裂くような光の泣き声はただごとではなく 「え、え……?」 一階には、男が居た。 マスク、黒い帽子 そしてぎょろりとした目。 やっぱり人を刺すような男は普通じゃない目をしている。 私は逃げ場もなく、追われて またその刃物をむけられた その娘の血で濡れた刃物を………… 「お願い、光 静かにして、静かにして」 「ねーーなにー?かくれんぼー?」 風呂場 私は娘の口をおさえ 空っぽの浴槽の中しゃがみこんでいる 頼む、はやく家から出ていってくれ 別に金目のものなんていくらでも持っていっていいんだ お願いだから目撃したという ただそれだけのことでこの尊い命を奪わないでほしい 光は、めんどくさい子だ よくものはこぼすし、言葉を覚えるのはおそいし 空気はよめないし でもいい子だ ろくに教えてもないのにいつのまにかちゃんと謝るようになって、感謝の手紙とかもくれて そして私と旦那によく似た顔をしていて 将来どんなふうになるのかたのしみだ 結構性格が明るいからムードメーカー的な存在として愛されるかもしれない そんな未来がある者を なんであんないい歳こいて無差別に人を傷つける男に、なんの権利もなく、大した理由もなく 奪われなきゃいけないのか 恐怖より、怒りがわいてくるようだ。 しかし事情も説明できないこの状況で 娘が静かにしてられるのには限界があった 「やーっ!もう飽きたー!」 足音がこちらに近づいてきて 扉が空いた 逃げ道はもちろん、なかった。 「……これで六回目?」 何故繰り返しているのかは、わからない ただ同じことの繰り返しだとはおもう なにか、流れを変えなければ……。 いち早く玄関に走ると 階段からおりてきた犯人とでくわす 逆にはじめから2階にいると 犯人はしばらく一階でうろうろしている でも、そのうちたててしまう音に2階にきて殺される ここまではわかった でも、だから、つまり逃走ができないのだ このまま殺され続けるのは嫌だ。 一番やり過ごせそうなのは静かにしているときだけど 静かにしてられるのには娘がいるので限界がある。 「お願い……静かにして 静かにしてよ……」 本当に?それだけでこの状況をやり過ごせる? 他に方法があるはずだ 私は2階から庭を見下ろす 先に布団を投げてから娘と飛び降りれば逃げられないだろうか? 玄関からいけない以上 それしかないような気がした 私は不思議がる娘をよそに 布団をなげる 犯人が階段をあがってくる音 すかさず、娘を抱きかかえて…… いけるかもしれない、はやく、はやく だめだ、犯人のほうがはやい 「くっ……」 私はとっさにベランダにおいてあったモップを手に取り、犯人の胴体を突く。 娘を先に布団の上へ、2階からなげて 私は犯人にモップをふりかかった。 わかってるよ 勝てるわけはないよね 光の泣き声に、なにごとかと近所の人が助けにきてくれた おそらく通報もしてもらえるだろう ……運命がかわった! 私はそう確信した。 これで殺されるのは、犯人と対峙している私だけだ 「きなさい!たとえあなたに殺されてもこれは私の勝ちよ!ざまあみなさい! ……さようなら!光! 生きるのよ!」 私は笑っていた。 犯人は不思議そうな顔をしている そうだろう、わからないだろう どうせ、そうたいした理由もなく生きて暴力をふるう犯人へ 私は、崇高なこの意志で 死んでいくのだ。 うるさい外に反して 静まり返る、この家の中で end
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