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ぼんやりと車内を見回す私の目に真っ赤な何かが飛び込んできた。
(ん、ランドセル?)
人混みに紛れて目にも鮮やかな真っ赤なランドセルがヒョコヒョコ動いている。小学三年生ぐらいだろうか。おかっぱ頭でこれまた真っ赤なジャンパースカートを着た少女が車内を歩き回っていた。電車に乗って通うということは私立の小学校にでも通っているのだろうか。それにしては何だか貧乏臭い格好をしている。あんな子この電車に乗ってたっけ、と思いつつ見ていると少女と目が合った。
(どこかで見たことのあるような子だな)
なぜかそう思い首を傾げていると少女は真っすぐこちらに向かってきた。
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
ああそうか、この娘昔の自分にちょっと似てるんだ。そうと思いつつ子供と話すのがあまり得意でない私は「ん、会社よ」とそっけなく答えた。
「会社?」
「そう。お仕事なの。ここ座っていいよ。お姉さんもうすぐ降りるから」
私は立ち上がり車内を移動する。会社の最寄り駅まであと十分程。ドア付近に立ち流れていく外の景色を眺めていた。
「ひっ」
突然腕を掴まれ思わず悲鳴が漏れる。痴漢かと身構えて振り向くとさっきの少女がぎゅっと私の腕を握っていた。反射的に振りほどくと少女はこちらを見上げてニタリと嗤う。ちらりと見える半分折れた前歯が忘れかけていた記憶を蘇らせた。自分が子供だった頃の……最悪な記憶を。
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