Conscious

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 クリスマスをこんなに僻んでいるのは、私に彼氏がいないからではない。クリスマスに最悪な思い出があるからだ。思い出、とは言えないな。事件、と言った方がいい。そっちの方がしっくり来る。  私はクリスマスに5年も付き合った彼氏にフラれた。そろそろプロポーズが来るかと思った矢先に別れを告げられたため、最初はただの冗談だと思っていた。でも違った。 『他に幸せにしたい人ができた』  そう言った彼に、私は「ああ、浮気されてたんだ」とすぐに納得した。涙は出なかった。悲しみよりも自分が浮気されていることに気づかなかったショックと怒りが大きくて、つい周りに人がいたというのに思いっきり彼の顔面を拳で殴ってしまった。スッキリはしなかった。むしろ、拳に残った痛みが辛かった。  そんな過去があるから、私はクリスマスが大っ嫌いだった。それからは恋なんてしてないし、仕事に生きる人間になってしまった。なりたくはなかったけど、でもそれが後々からじわじわとやって来た悲しみを隠すのに持ってこいだったのだ。 「なー、白川ー。質問いいー?」 「ダメ」 「どうして営業で一二の成績の俺らが残業してるのかなぁ?」 「私たちを疎ましく思う奴らが仕事を押し付けて、帰ったから」 「酷くない?」 「そういう人間がいっぱいいるってことでしょ」  私は冷めた声でパソコンを睨むと、手を動かしていた白川が作業を止めてこちらを見る。 「ねぇ、今日の白川いつもと違う。冷たい。クリスマスだから?」 「は?」  私はドスの聞いた声で言うと、すぐに佐倉が「すみません」と言ってまたパソコンに向き直った。 「でもさー、俺正直これやらなくていいと思うんだけど。俺らの仕事じゃないし」 「そうしたいのは私も山々だよ。でも、それができないのが佐倉も分かってるでしょ? 課長だってあんまり私たちのこと良く思ってないんだから」
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