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「優秀な人材ほど憎まれるって矛盾してるよね。何でそんな俺らのこと疎ましく思うかね? そう思うんだったら、営業行ってこいって感じだよ、本当に」
「同じく」
私は最後の文字を入力し終わると「終わったぁ」と言って天井を仰ぐ。回転椅子の背もたれに体重を預けて、体を伸ばした。佐倉が「お疲れー」と言うと、私は溜息を吐く。仕事が終わってもう家に帰れるのは嬉しいけど、このボロボロの状態で恋人たちがイチャイチャする中を歩くのは気が引けた。
あんなに家に帰りたくて仕事をしていたのに、終わった今ではもっと仕事があれば良かったと思っている自分がいる。本当に世界というのは矛盾している。
「よし、俺も終わったぁ」
「お疲れー」
「はぁ、しんどかった。これからさらにしんどいけど」
どうやら佐倉も同じことを考えているみたいだ。
「なぁ、飯行かね? 夕飯食ってないだろ?」
「焼肉で。あと、佐倉の奢り」
「何で俺が奢らなきゃなんだよ」
「クリスマスなんだし、奢ってよ」
「何でだよ。意味分かんねぇよ」
佐倉は鼻で笑うと、回転椅子に座りながら私に近づく。
「俺の彼女になってくれるなら、奢ってあげる」
「……バカじゃないの? 誰があんたの彼女になるか。てか、あんたには可愛い彼女がいたんじゃないの?」
「クリぼっちな俺に可愛い彼女いると思う? いたら今頃イチャイチャしてるし、何なら彼女はもうずっといないわ」
「噂ってこと?」
「噂は真に受けちゃいかんよ、白川君」
自分で言って傷ついたのか、佐倉ははぁーっと長い溜息を吐くと「彼女欲しい……」と小声で漏らす。私は噂だったのかと思うと、何故かホッとしている自分がいた。
「俺さー、好きな子いるんだけど。振り向いてもらえなくてさー。だから彼女も作んない訳」
「あー、そうなんだー」
「興味無さそうに言わないでよ」
「だって興味無いんだもん」
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