幽冥への通り道

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 私はその光景を見て、思わず甲高い声で叫びました。 「馬鹿な酔っ払いだ。跨ぐなと言ったのに」  店主は鳥居を見ずにそう言いました。私は腰が抜けてその場に崩れ落ちました。酔っ払った男の姿はどこにもありませんでした。食べかけの腸詰めだけが、鳥居の下に落ちていました。主人の帰りを待つ忠犬のように。 「ああ、ほらまた馬鹿な酔っ払いがやって来た。今日も賑やかだねぇ」  店主はそう言うと、おぼつかない足で屋台までやって来た酔っ払いが腸詰めを一つ頼みました。  私は怖くなって地面を這いつくばいて、その場から逃げ出しました。何て恐ろしいのでしょう。あの鳥居は本当にあの世と繋がっていたのです。あの男はあの世へと連れられてしまったのです。ああ、おっかない。本当におっかない。私は賑わう客を掻き分けながら、自宅へと這いつくばいました。  地面と手が擦れ、家に着いた時には血で汚れていました。ですが今はその痛みさえも感じられないくらい、私の心は恐怖で高ぶっていました。  それ以降、私はあの山へ近づくことはありませんでした。店主ともあれから一度もお会いしていません。ですが毎年夏になった時、ふいにあの日の出来事を思い出すようになりました。思い出す度に手が震え、一人でいることが怖くなります。  いかがでしたでしょうか。嘘のようですが、本当のことなのです。どうか皆様も酒にはお気を付けください。理性を保てなくなって、あの世へ逝きませんよう、私からの忠告でございます。  作者 拝
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加