幽冥への通り道

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 敬愛する読者様へ  これからお話する物語は実際に私が体験したことです。今でも思い出すだけで恐ろしいですが、今日は特別に皆様にお話したいと思います。どうか最後までお読みいただけるよう、作者の私も誠心誠意を込めて書かせていただきます。  夏のとある日のことです。その日の私は心地の良い気分のまま外に出ていました。久しぶりに飲んだ酒に気分が高ぶっていたのです。気が付けば人通りの無い山奥にいました。  山奥には良い匂いを漂わせた屋台がありました。その日は近所で夏祭りが行われていたようで、私はおぼつかない足取りで屋台に近づくと店主が気前の良い声で私を出迎えてくれました。 「御嬢さん。おひとつ如何かね」  そう言って、店主が少し黄ばんだ歯を見せて笑いました。店主の前には湯気を立てた腸詰め(ソーセージ)がずらりと並んでいました。どれも美味しそうな腸詰めに、私は思わず手を伸ばしそうになります。ですが理性がそれを制して、私はすぐに手を引っ込めました。 「残念ですが、今手持ちがありませんの」 「そうかい、それは残念だ。なら内緒でまけてやる。ほら食べなさい」 「いえ、頂けません」 「何のこれしき。ほら」  店主は腸詰めを私に差し出すと、私は貰わないのも悪いと思い、有難くそれを受け取りました。私は腸詰めを口にすると、良い音が鳴りました。今まで食べたどの腸詰めよりも絶品です。最後の晩餐にはこの腸詰めを食べたい、とも思いました。それが伝わったのか、店主が満足そうにまた少し黄ばんだ歯を見せて笑いました。 「どうだい、美味いだろう」 「ええ、とっても」 「そうかい、そうかい。まけてよかった」
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