花を嫉みて

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「──することによって、サクラ病を撲滅していきます。サクラ菌を許すな!日本の古くからの文化が根絶やしにされるのを、黙って見ていることはできない!」  窓の外から見える選挙カーが、声を張り上げていた。  友人ら3人で窓際の席に陣取っていた斎藤 美鈴は、あまりの声量に眉をひそめた。 「うるさいなー、あの選挙の人。なんでこんな朝っぱらから、校門の前でやるかな」  ため息をつきながら呟くと、それに祐月がうなずいた。 「だよね。いくら選挙がそろそろだからって、さすがにうるさいよ。もう公害レベルじゃない。そう思わない、奏」 「んー、まあね。とはいえ、絶対に当選するって当てがあるんでしょ。なんてったって、サクラ病を撲滅するとか、そんなこと言ってるわけだし」  奏の言葉に、一瞬3人の間を沈黙が流れた。    サクラ病。美鈴の祖母の時代から日本中に広まり始めた、桜による病のことである。 「・・・・・・無理なのにね、なくすなんて」  美鈴の呟いた言葉に、奏がうつむいた。  西暦を表す数もずいぶんと大きくなり、昭和、平成、令和のあとに続けてふたつばかり年号が変わった頃。  未だに不安定な世界の片隅、青々とした大海原のその縁で。  少女らは、花を愛することさえも、禁じられようとしていた。
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