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その女。天才の姉なり
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「……お疲れ様でした。千冬先生」
「うぇーい。間に合ったー。チーちゃん、やればできる子」
「はは……。入稿ギリギリで、こっちはヒヤヒヤしてましたけどね」
原稿を取りにきた、作家の自宅。仕事机の前でダブルピースをして、満面の笑みを浮かべている妙齢の女性作家──千冬の前で、編集の新田遼は苦笑する。
「間に合ったんだから結果オーライじゃん」
「そうですよね……。できれば、もっと余裕を持って頂ければ、結果オーライ……」
遠い目で呟く遼を遮るようにして、千冬が「あ、そういえばさぁ……」と言った。
「例の件、どうなったの? ほら、向井先生のところの娘ちゃんの……」
千冬の問いに、遼が力無く、首を横に振った。
「進展はありません。証拠を掴もうにも、向井先生の親族一同が協力して、阻止してますから……」
「そっかぁ……」
千冬が残念そうに肩をすくめる。
「それにしても、本当にひどい話だよね。故人の遺言書を勝手に破棄するとさかぁ。犯罪だよ、犯罪!! ねぇ、それ、本当になんとかならないの?」
「したくても、証拠がないから難しいんですよ。親族が口裏を合わせて、そんなものはなかったって言ってるし」
「でも、向井先生は、遼さんと娘さんには言ってたんでしょ? 娘さんに宛てた遺言書があるからって……」
「はい……」
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