その女。天才の姉なり

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『俺が死んだら、真帆(まほ)のことを頼む。真帆……。お父さんが死んだら、お父さんの書斎の金庫にお前宛ての遺言書があるから……』 病院のベッドで、力無げに笑いながら手を握ってきた向井のことを思い出す。 「向井先生は、たくさんのベストセラーを出された方です。ドラマ化も映画化された作品もあります。その権利を獲得すれば、働かなくても生活できるだけのお金はいつでも入ってきますから……。娘とは言え、後妻で入った子の、ましてや反対を押し切って結ばれた女の子供のところに、それらが譲られるのを我慢できない連中がたくさん居たんでしょうね。前妻の息子も居ますし」 「向井先生、娘さんのこと溺愛してたしねぇ。人間の欲は怖い怖い。いやぁ、私、売れてなくて良かったわ」 「何を言ってるんですか。千冬先生だって、売れっ子じゃないですか。日本海マーメイドマン。ドラマ化するって聞きましたよ」 「あ、それ、まだ情報解禁になってないから、ここだけの話にしといてよ」 「わかってますって」 笑いながら答えて、しばし遼は沈黙する。 そうして、少しやけくそ気味に── 「いっそ……」 「ん?」
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