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「店長、これ辛いです」  咽せながら優香ちゃんが訴えるので、慌ててラッシーを差し出した。相変わらず大輔さんと榎田さんは睨み合ったまま。榎田さんが大輔さんからわたしを奪う、なんて少女漫画にありそうな発言をするものだから驚いてしまった。優香ちゃんはこの件には立ち入るつもりはないという意思表示か、黙々とカレーを食べてはラッシーを飲んでいる。  奪うという言葉は好きじゃない。そもそもわたしは大輔さんの所有物ではないけれど、他人の持ち物を力でねじ伏せて奪い取るとか、そういう考え方が傲慢で嫌だなぁと思うのだ。  ひとしきり食べて落ち着いたのか、優香ちゃんが立ち上がって厨房へ向かった。お茶でも飲むのかなと思っていたら、ワインボトルとグラスを手に戻ってくると、わたしの目の前に置いた。これを飲めということだろうか。 「あ、それ、一番高いワイン!」 「そうです。そのくっだらない喧嘩、早くやめていただけないならあたしと園子さんで飲んじゃいますよ」 「くだらなくないだろ。園子さんのこと奪うって言ってるんだ」  優香ちゃんは大きなため息をついた。つられてわたしも息を吐く。大輔さんったら、ちょっとそそのかされたらわたしがほいほい榎田さんになびいてしまうと思っているのだろうか。わたしの愛を、なめないでほしい。 「優香ちゃん、開けちゃってください」 「はーい」  大輔さんの制止も間に合わないくらい流れるような手付きで優香ちゃんはボトルを開けた。深紅の液体がグラスにたっぷりと注がれる。口元に近づけるとカシスのような香りがした。高いワインと聞いて、少しもったいないような気がしたけれど、一気にグラスを傾ける。ごくごくと喉を鳴らし、全て飲み切ると、大輔さんが呆気に取られた顔をしていた。
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