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 咳払いをひとつして、鏑木は「このレモンシャーベットをふたつください」と言った。店員の冷ややかな表情に慌てて手を引っ込めた。 「ふたつ? 鏑木は食べないのか?」 「いいです。あたし用事ができたので。もう帰らないと。店長、ごちそうさまでした」 「え、デートプランは?」 「そんなの、ふたりで話し合って決めてください」  鏑木は「ごゆっくりどうぞ」とにこやかに微笑んで席を立った。軽やかな足取りであっという間に自動ドアをくぐり抜け、じりじりと照りつける陽射しの中に消えていく。 「えっと、どうする? とりあえず俺あっち側座ろうか」  腰を上げかけた俺を、園子さんが腕を掴んで引きとめた。 「園子さん、どうしました?」 「あ、あれ? なんでもないです」  ぱっと手を放した園子さんは、反対側の席に座るよう促した。向かいに腰をおろすと、ちょうどいいタイミングでレモンシャーベットが運ばれてきた。  レモンシャーベットを口に運ぶ。冷たく爽やかなシャーベットは、こってりしたものを食べた後の口の中をリフレッシュしてくれる。店でもこういうの出したいな、なんて考えてしまって、振り切るように頭を振る。せっかくふたりきりになれたというのに、どうして俺は店に出すメニューのことばかり考えてしまうんだろう。 「あの!」  園子さんが俺のことをじっと見ていた。ただならぬ雰囲気にスプーンを置いて、続く言葉を待つ。 「たとえば、わたしが店長、じゃなくて、大輔さんにごはんを作るのはどうでしょう」 「園子さんの料理、食べてみたいです」  何の話だろうと悩みつつ、率直な感想を伝える。答えながら、残りの休みの過ごし方の提案なのだろうとなんとなく気がついた。 「あ、いや、大輔さんが作ったほうが絶対おいしいのはわかってるんですけど。たまには……どうかなって」 「俺は大歓迎です。めちゃくちゃ嬉しい」  園子さんが俺のためにご飯を作ってくれるだなんて、嬉しすぎるだろ。もったいなくて食べれないかもしれないな。
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