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「じゃあ今日はいっぱい作りましょう。まずは買い物ですね」
ファミレスを出た大輔さんは、嬉しそうにそう言った。わたしの手を握って、ずんずんと歩き始める。でも、前みたいに置いてきぼりにはならなくて、ちゃんとわたしの歩幅に合わせてくれる。それに、手首を掴むのではなくて、ちゃんと手を繋いでいる。ふわふわの綿菓子を口に含んだみたいにじんわりと甘い気持ちになる。
優香ちゃんはデート中に仕事のことを考えるのはダメだって大輔さんを叱っていたけれど、わたしはお店のことばかり考えてしまう大輔さんのことを愛おしく思う。みんなが食べている様子を厨房から見守っている表情は本当に柔らかくて、そういう彼の優しさが料理の味にも滲み出ている気がする。お客さんがどうしたら喜んでくれるかをつい考えてしまうなんて、大輔さんらしくてすごく素敵だと思うのだ。
「大輔さん」
振り返って、夏の陽射しに目を細めた大輔さんにきゅんと心が跳ねる。きっと、この感情はさっき食べたレモンシャーベットみたいにそのうち溶けてなくなってしまうのだろう。だけど、甘くて、少しだけ苦くて、とびきり幸せなこのひと時を忘れることもないだろう。
「大好きです」
目線を合わせるように屈んだ彼の頬に唇を寄せる。驚きの後、ゆるゆるとほぐれていくその表情は堪らなく愛おしくて、わたしは心の中で何度もシャッターを押した。
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