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「なんだかみんな、ほどよい距離感で僕の世話を焼いてくれて、まるで家族みたいで。それでシェ・ヴーに通うようになりました。そんなときにバイト募集のお知らせを見つけたんです」  滔々と語り続ける榎田さんをみんな静かに見つめていた。 「榎田、お前が大変な目に遭ったのはわかった。この店を気に入ってくれたのもわかった。でもそれがどうして園子さんを奪うとかそんな話になったんだよ」  大輔さんはむすっとした表情で問いかけた。 「だって、園子さん優しくて、かわいいじゃないですか。そんな人が恋人になってくれたらって思ったっていいじゃないですか。……いや、すみません。優香ちゃんは辞めちゃうって言うし、園子さんも店長とお付き合いしてるって聞いたら、僕ってひとりぼっちだなって悲しくなって、それで……」  大輔さんはまだ腕を組んで榎田さんをじっと見ている。それはそれは野生の熊のような怖い顔で。 「ごめんなさい。奪うなんて本気で思ってないですよ。ちょっとした冗談のつもりだったんです。おふたりがすごくお似合いで、だけど店長ってなんか鈍感そうなところあるし、僕がちょっとつついて、ふたりの関係をより強固なものにできたらって」 「店長、もう許してあげたらいかがです? 強固なものどころか結婚の約束までしたんですから。ここからは店長と園子さんの結婚お祝いパーティにしましょ」  優香ちゃんは追加でグラスを持ってくると、高級ワインをまたなみなみと注いでいった。大輔さんはその様子を険しい顔で眺めながらふぅと息を吐き、ゆっくりと腕をほどいた。
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