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 店の中央に立って、息を飲む。必死になってパーティ用の料理を作っている間に、店内は色とりどりの花々で綺麗に飾り立てられていた。壁面にはたくさんの写真が貼られている。引きつったぎこちない笑みを浮かべる俺とその横ではにかむ園子さん。ミルクティーを飲んでとろけるような幸せな表情を浮かべた園子さん。鏑木秘蔵の俺のだらしない顔もあり、剥がしたくなった。よく見ると、鏑木のソロショットもなぜか飾ってある。 「店長、こちらは準備オーケーです」  ネイビーのジャケットを羽織り、いつもよりスマートな装いの榎田に声をかけられる。 「っていうか店長、まだそんな格好してるんすか。早く着替えてきてください」  榎田に腕を引かれ、更衣室に連れていかれると、シルバーのタキシードが真っ先に目に入る。何度か試着したけれど、スーツも含めてこういうちゃんとした服は普段着ないから似合っている気が全くしなかった。  シェフコートのボタンに榎田が触れ、慌てて自分で外した。このままだとこいつに着替えさせられる。 「着替えたら呼んでください。髪セットしますから」  榎田は静かに更衣室から出ていった。大きく息を吐いた。園子さんに結婚してくださいと言われてから早半年。お互いの家族と挨拶をしたり、着々と結婚への道筋を辿ってきた。園子さんのご両親は俺の顔を見て一瞬固まったけれど、思っていたよりもスムーズに結婚の承諾を得ることができた。  園子さんを両親に紹介すると、ふたりともよほど気に入ったのか終始にこにこと嬉しそうにしていた。まさか大輔がこんなに可愛らしいお嬢さんと、と何度も言われ、そのたびに恥ずかしそうに俯く園子さんが愛おしいと感じた。
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