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園子さんの希望で、式は挙げずにシェ・ヴーでささやかなパーティをひらくことになった。パーティの仕切りは鏑木がやってくれていたから、バイトを辞めたと言っても毎日のように顔を合わせていて、これまでとさほど変わった気がしない。
店内に飾った写真は、鏑木の恋人が撮ってくれたものがほとんどだ。プロのカメラマンらしく、そんな人に無料で写真を撮ってもらうのは申し訳なく、何度か店の料理を振る舞った。恋人と一緒にいる鏑木は、いつもより柔らかな表情で笑っていて、あいつも普通の女の子なんだなって思ったのが正直な感想だった。
タキシードを身につけ、鏡を見る。やっぱり似合わない気がして、すぐに目をそらした。
「榎田ー、着替え終わった」
更衣室のドアを開けて呼びかけると、そばで控えていたのか、榎田はすぐに姿を現した。もう一度更衣室に連れ戻され、椅子に座るよう指示される。腰を下ろすと髪を櫛で梳かしつけたり、整髪料をつけられたりした。
「園子さんもそろそろ到着するそうですよ。店長はもうドレス姿見たんですか」
「いや、当日までお互いに秘密って言われてて」
「じゃあ楽しみですね」
「ああ」
榎田もすっかり店に馴染んだ。相変わらず女性客にちやほやされているが、おかしなトラブルを起こさないよう適度な距離感で接するよう指導した。常連客の園子さんに手を出した俺が言うのも説得力ないかもしれないけれど。榎田はその気があってもなくても、他人と近い。親しみやすいのは彼の良さでもあるから、難しいところだ。
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